【本多勝一】「これを他に書いたら一億円払うという誓書を書きなさい」|久田将義・連載『偉そうにしないでください。』第六回
裏社会や政治家からは当然ですが、マスコミ関係からのもめ事も頭が痛くなるものです。体育会系の僕は文系や頭のいい人の抗議には弱いのです。あ、でもこういう事もあったからそうでもないですか。
相手によりますね。
こんな「もめ事」がありました。
「噂の真相」(休刊中)で連載していたジャーナリスト・本多勝一氏がリクルートの接待疑惑で編集部、というより岡留安則元編集長とギクシャクしていた時がありました。
本多勝一氏は僕も愛読していた時期がありまして、一世を風靡した書き手と言ってよいジャーナリストです。本サイトを見ている40歳以上の方も、本多氏に影響をされた方は多いのではないでしょうか。
「殺す側の論理」「殺される側の論理」など、彼が30代半ばから40代半ばくらいに上梓した著書はかなり読んだものです。僕は大学生の頃に影響されたクチです。今、改めて読むと懐かしくて良いものですけどね。
「噂の真相」の接待疑惑報道の頃は、既に本多氏へのリスペクトは冷めていましたが、それでも「完全に」という訳ではなかったように記憶しています。ところが、連載で岡留さんを攻撃しはじめた時、「?」マークが頭に浮かびました。
ヒステリックだな、と。
で、どうせなら、当時、僕が編集長を務めていた『実話ナックルズ』で誌面提供するから論争をやりませんか? と両氏に呼び掛ける事にしました。
岡留さんは即座にOK。日頃、言論の自由を掲げている人なので当然の如く、僕の提案を受け入れてくれました。さすがです。
一方の本多勝一氏。『ナックルズ』は知っていた、とおぼろげながら電話で話した記憶があります。
しかし、論争をやるにあたって条件を出されました。僕は誌面を提供する際、両氏に同回の同ページを提供すると言ったと思います。ま、それはいいが、と本多氏。
「岡留(呼び捨て)がこの論争の事をほかの媒体で書かないことが条件」
と言うのです。
「??…。訳、わからんな」と思いました。なぜ、岡留さんの執筆活動を僕が制限する権利があるのでしょうか。
で、さらに追い討ちです。
「もし、書いた場合、一億円払うという誓書を書かせる事」
というのです。
「一億円」という言葉は今でも耳に残っています。僕の中ではその金額の指定が理解不能でした。
「いや、そんな条件の論争なんて聞いた事がないですよ。第一、岡留さんに失礼でしょう」
と僕は言って電話を切りました。
後に岡留さんに電話をし、「こんな条件で論争するなんて聞いた事がないし。一億円の根拠がわからないし。岡留さんが論争についてどこで何を書いても当たり前ですが自由な訳ですから、この企画は止めておきましょう」と自ら提案を引っ込めました。岡留さんは電話の向こうで「それは無理だね」と苦笑いをしていました。
当時、僕は「トラブルなう」(ミリオン出版)でこう結んでいます。
「それにしても。である。一時期ではあるが面白いと思ったし、一部では熱狂的なファンを作った人が言論の自由を脅かすような事を言うとは…。誓書でなく『一億円』を要求するとは…。がっかりした。この人の著作はもう読む事はないな、と思った」
怒っていますね、僕。
「読む事はないな、と思った」とあります。でも実家に帰ると、書棚の「殺す側の論理」「戦場の村」などを探してしまうんですよね。今、読むと当時の世相を省みるうえで、勉強になります。
それと、探検物などはやっぱり面白い。「極限の民族」「旅立ちの記」とかは特に、です。それだけに、なぜ「一億円を要求」してきたのか、残念です。今回はタイトルの「偉そうにしないでください。」の後に「悲しくなるから」と付け加えておきます。(「トラブルなう」より再録・加筆)
文◎久田将義