至極の選挙ロードムービー『シン・ちむどんどん』 「辺野古基地・ひろゆき発言」と沖縄県知事選をダースレイダーとプチ鹿島が掘り下げる

辺野古反対派の人たちの声を聴く(映画「シン・ちむどんどん」より)

「真っ当に生きたい」。それがこの映画を見た感想です。

つまり、真っ当でない発言や発想が世の中にはびこっている気がしてならないのです。この映画の主演・監督のラッパーのダースレイダーさん、時事芸人のプチ鹿島さんは、沖縄・辺野古基地問題や反対派の人達の座り込みに「0日からでよくね」と笑顔で言っちゃう、論破王(もう死語ですか?)ひろゆき氏の人としての振る舞いに対して、直接批判をしている訳ではないけれど、全く違う角度から迫っていっています。

当事者性という言葉があります。事件・事故などに遭った人たちの話を聞く時、最も大切な姿勢です。冷笑系という言葉がありますが、これは当事者性の反対語と言っても良いでしょう。今回、ダースレイダーさんとプチ鹿島さんは(『劇場版センキョナンデス』でも行っていますが)は、改めて当事者性という態度をきちんとしつつ辺野古基地反対派の人たちの話を聞きます。とにかく聞きます。これが何と大切な事か。

もちろん、反対派の中でも、この手の取材をしているライターに聞く限りでも毀誉褒貶ある人もいる、らしい事は分かります。それでもとにかくも、聞く。当事者はなれません、我々は。それでも当時者に近づくために「聞く」のです。ひたすらに。

この映画を見て、少し福島第一原発事故に似ているのかな、と思いました。僕は、2011年の夏頃から双葉郡に生まれ育ち、原発に勤め、2011年3月11日14時46分をあの福島第一原発(通称・1F)の中にいた人々の話を取材しました。作業員・被災者は初めは僕のことを「何だ、こいつ」というような姿勢でした。当たり前ですよね。東京からいきなり来た人間に、こちらは家が地震で崩壊し、防護服を着て汗まみれになりながら廃炉作業をしているのに色々聞かれたら。当事者しか分からない気持ちですよね。

それでもしつこく、朝まで酒を飲みにながらひたすら、彼らの話を聞きました。当事者にはなれなくても当事者性を大事にしたいと思ったからです。卑近な例を出して申し訳ありませんが、二人の沖縄の人々に対する姿勢を見て、自身に謙虚になっている様子が画面を通して感じられました。

そして思う訳です。「真っ当だな」と。「チートは要らない」と。

二人は賢しらな事を言う訳でもありません。そして、特別な政治思想を持っている訳でも恐らくないでしょう。ただただ、真っ当に取材し、それを映画にしている事が伝わってくるのです。そして今の時代、そういった姿勢こそ大事に持っておかなければならないのではないでしょうか。ですから、ダースレイダーさんもプチ鹿島さんも「信頼できる」のではないでしょうか。