文春新書『特殊詐欺と連続強盗』が指摘する近年の犯罪のトレンド「デフレ型犯罪」とは│プチ鹿島

犯罪はウィルスのように変異していく(写真はイメージです)。

こんにちはプチ鹿島です。TABLO編集長の久田将義さんが新刊「特殊詐欺と連続強盗 変異する組織と手口」を出版。とても面白かったので紹介したい。

まず近年のギョッとする事件について。ネット上で実行部隊を集め、海外の拠点からITを使って詐欺や強盗を行わせる手口。SNSでの「闇バイト」募集でつながった強盗グループが全国各地でフラットに実行する。「底が抜けた感」は社会の各分野や政治にも感じていたが、まさに犯罪にも。

ではキーワードは何か? これら特殊詐欺と連続強盗に共通する志向は「現金を手っ取り早く手にする」こと。日本経済の長い低迷期に生まれた「デフレ型犯罪」なのだという。ということは世の中や時代のせいなのだろうか。その点について久田さんは「世の中が悪いから、若者を犯罪に駆り立ててしまった」とか「ヤクザを締め付けすぎるから、半グレの抑えが利かなくなってしまった」などとはこれっぽっちも考えていないという。いつの世にも犯罪は存在し、「悪い連中」は、経済環境が良かろうが悪かろうが、その時代の状況に適した形で犯罪を行うからだ。今はそれが「デフレ型」になっているということ。※その対極にあるのがバブル期に見られた、土地や株などの「資産」とからむ「インフレ型」犯罪。

デフレ型は、

《こうした犯罪の態様をひとつの単語で表すならば、「拙速」という言葉がピッタリである。》

ともすれば私を含めた一般的な印象は、特殊詐欺グループには緻密な印象を持つだろう。そうした面はたしかにあるが、ITツールの「便利さ」に支えられているところが大きいという。

《つまり、自分たちの正体を隠す巧みさは、今という時代のIT環境が可能にしているものであって、特殊詐欺犯の能力から生まれているわけではないということだ。》

彼らの組織や手口の本質はやはり、手っ取り早く現金をつかみ取りたいという「性急さ」にある。私は得体のしれない不気味さを感じていたが、久田さんの解説のおかげで少しずつ見えてきた。さらに本書は最近の特殊詐欺と連続強盗だけでなく、その歴史(変異する組織と手口)についての解説こそが本番なのである。

「地上げ、総会屋」「ヤミ金融」「五稜会」「半グレ」「ITバブル」など、ここ数十年のアウトローと経済事件の振り返りと現在への変異を学べる濃厚な一冊だった。目からウロコというか、読むと誰かに披露したくなります(なので書いてみました)。おすすめです。(文@プチ鹿島 連載「余計な下世話」)