自分の会社がいつの間にか他人名義に 法の穴を突いた驚くべき手口
写真はイメージです。
様々な特殊詐欺が跋扈する中、知らないうちに株式会社の代表取締役を退任させられ、全く知らない人物に株式会社を乗っ取られるという衝撃の手口が判明した。
リフォーム、店舗工事、不動産仲介業等を営む株式会社Aを横浜市で営むB氏は、渋谷の好立地の飲食店を買収し、リフォームした上で業績を上げて、転売する事業計画を進めていた。しかし、取引先がAの登記事項証明書を取得するとB氏は、6月1日に解任され、代表取締役にC氏が就任していた。融資直前の代表変更は金融機関の審査にも支障をきたし、5000万円の銀行融資の話も白紙になってしまった。
B氏は迅速に横浜地方裁判所に役員の地位を仮に定める仮処分、職務執行停止・代行者選任仮処分命令申立を行い、幸い8月12日に登記を回復することができた。
第三者から株式会社Aの株式を譲渡されたとするC氏は、株主総会を開催し、失踪中のB氏を
解任したものの、錯誤だったと主張。
「株主は私1人だけで、誰にも株式譲渡をしていないにもかかわらず、C氏が株主として株主総会議事録を作成したのは、悪質極まりない。C氏は第三者から株式を得た、騙されたと主張するものの、誰から株式を得たかを明かしませんから、グルであると思っています」とB氏は怒り心頭だ。
なお、本件の登記はC氏が司法書士Dに依頼して申請。Dは、取引先の会計法人、行政書士法人Eグループからの紹介だったので、信用して登記申請をしたと主張。
司法書士、法務局の業務は形式的で、商業登記では、失踪や死亡に関して公的な証明書を添付する必要がないので、本件のように知らないうちに失踪したことにされたり、死去したことにされる可能性があるのは、法の抜け穴で危険だ。
「株主でないのに株主を装って、事実と異なる登記申請をしたのは、有印文書偽造。実損が出ていないと解釈する警察は動きが遅いですが。融資を受ける機会を逸し、好条件の店舗買収ができず、短期間代表取締役が別人になるという形で登記履歴を汚され、会社を取り戻すための裁判所の手続きの経費、労力等、甚大中損害を被っています。私は刑事告訴して、加害者、加害者グループを罰するとともに、同様な被害が起きないように世の中に警鐘を鳴らしたいと思います」とB氏は語った。
フォーキャスト司法書士事務所の尾形光司代表司法書士は、商業登記の仕組みに穴があるという点について以下のように述べた。
「株式会社の代表取締役が退任する事由として、①辞任 ②任期満了による退任 ③解任 ④死亡 などがあるのですが、①辞任については、本人の実印を押印した辞任届+印鑑証明書、または会社実印を押印した辞任届を提出させることで一定の真実性担保が図られているのですが、それ以外の場合、②③では株主総会議事録があればよく、④では親族名義で作成した死亡届で手続きができてしまいます」
また、法務局からの通知については、
「役員全員を『解任』する内容の登記が法務局に申請された場合、以前は、登記申請の時点で法務局から会社に対して連絡があり、そこで会社の乗っ取りに気づけるという制度がありました。ですが令和2年にこの取り扱いが変更され、法務局からの通知は登記申請時ではなく『登記完了後』に送られてくることになりました。この変更は、乗っ取りなどではない普通の手続きの場合にまでいちいち登記手続きが中断される、という不都合を避けるためにやむを得ないところではあったのでしょうが、会社乗っ取りの防止という観点からは、やや後退した形になりました。」と説明する。
本件の背景には、外国人による会社売買がさかんに行われているという点がある。
「ここ数年で、外国人が、日本の会社を購入するというお話しをよく耳にするようになりました。
外国人も日本で会社を設立できるのですが、外国人が設立した新会社は、会社名義の銀行口座の開設に難航するケースが多く、せっかく会社を作っても、口座ができないために、1年にもわたってまともなビジネス活動が始められないという事例もあります。そのような理由もあって、外国人起業家にとっては、既に口座を持っている既存の会社を、M&A仲介会社や、知り合いの伝手を頼りに買い取りたいというニーズは多く存在しているようです」と尾形司法書士は語った。(文・写真提供@霜月潤一郎)