“買えるアイス”に「格差」を感じた昭和の子供たちは大人になっても“買える席”で悩んでいる|中川淳一郎
昭和の時代は、友人同士で駄菓子屋に行った時に購入するアイスでその家の「格」がバレたものだった。それを端的に表すのが『ドラえもん』の「世の中うそだらけ」(1975年)という回で、こんなストーリーだ。
のび太とドラえもんは150円を持っている。あみだくじの結果、のび太が100円のアイスを食べ、ドラえもんが50円のアイスを食べることになった。のび太が店でその通りに買って帰る途中、ジャイアンが「その50円のアイスを買う」と申し入れてくる。どうやら店に行くのが面倒くさいようだ。ジャイアンから50円をもらい、のび太はもう一度店へ行きアイスを買おうとするとジャイアンは「やっぱ100円のをくれ」と言い出す。
そしてジャイアンは50円玉を渡し、50円のアイスを戻すのだが、のび太は50円のアイスをもらったことに怒り出す。
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だが、ジャイアンは、
「おまえ頭悪いなあ。いいか、よく聞けよ。はじめに50円はらったな。今50円のアイス渡したな。50円と50円あわせていくら?」
と言うとのび太は、
「ちょうど100円!」
と納得をする。そして、ジャイアンからもらった50円玉を持って、再び店で50円のアイスを購入。結果的に150円を持っていったにもかかわらず、ジャイアンの詭弁により、50円のアイス2つを買って帰る結果となる。ドラえもんからは150円を持っていったにもかかわらず、50円のアイス2つしか買えなかったことをなじられる。
このストーリーから分かるのは、「あみだくじ」をやってまで100円のアイスと50円のアイスを選ぶ2人と、詐欺師のようなことをやりつつも100円のアイスをなんとしても食べたいと考えるジャイアンの100円アイスにかける思いである。100円のアイスといえば「バニラエイト」が憧れの的だが、カップアイスは50円の「イタリアーノ」で我慢する子供も続出。「ガリガリ君」も50円だった。ましてや120円の「宝石箱」など垂涎の的である。
やはり、駄菓子屋で平気で100円のアイスを食べる友人を見ては、「あぁ、こいつの家は一軒家で、ウチは公団だもんな……」なんてことを当時の子供達は見て、嘆息していたのである。これは同様に以前プールの回で書いた「150円のフランクフルトvs100円のアメリカンドッグ」でも発生した「格差」である。
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しかし、アイスをめぐっては、50円を食べる子供達にも優位性を感じられる瞬間があった。30円のアイスが販売されていたのである。代表はバニラ味の「ホームランバー」と、チョコ・バナナ・イチゴ味の「3色トリノ」である。関西では「王将 3色アイス」というものがあったらしい(関東在住のため食べたことがないが…)。
大人になってからの格差は飛行機でビジネスクラスかエコノミーか
あれから30年以上が経過し、私もオッサンになったが食べるアイスで己の経済状況を恥じたり羨んだりすることはなくなった。しかし、フェイスブックで同様の格差を感じることがある。
それは、「エアポート投稿おじさん」という言葉にも表れているが、海外旅行や出張に行くにあたり、空港でビジネスクラスのラウンジでくつろぐ様子やらそこにあるメシや酒の写真を投稿する人々である。
私など、ビジネスクラスにこの17年間、1回も乗ったことがない。年に最低1回、場合によって海外に3回行くが毎度エコノミーで、離陸前のメシや酒はそこらへんのカフェ的な店で摂取し、その様子をフェイスブックに投稿する。
しかも17年前にビジネスクラスに乗った時も、戦後のアフガニスタンへ取材に行くため、パキスタン航空に乗る必要があったのだが、あまりにも便が少なくビジネスしか取れなかったという事情である。
今、平気で毎度ビジネスのラウンジを利用する金持ちの人々を見ては「あぁ……。せいぜい20円か50円か70円の差で“格差”なんて思っていた時代はかわいいもんだったんだな」と思うのである。(文◎中川淳一郎 連載『俺の昭和史』)