栃木県足利市のコンビニエンスストアで万引したとして執行猶予判決を受けたマラソンの元世界選手権代表選手で飲食店店員の原裕美子容疑者(36)が判決後に群馬県内で万引した疑いで逮捕されていた、というニュースが報じられました。
前回の裁判では動機について、
「食べ吐きをすると気持ちが落ち着く。でも吐く物にお金を使うのが惜しい。捕まってもかまわないという気持ちでボディーミルクや飲料水、食べ物を盗んだ」
と供述していたようです。
おそらく今回の犯行についても裁判では同じような動機が語られるのではないかと思われます。そしてクレプトマニア(窃盗依存症)である、という主張もするのではないかと思います。
自分の犯行を病気のせいにする者たち
窃盗事件の裁判で被告人がクレプトマニアや摂食障害を主張することはよくあります。
「病気だからやってしまった。病気さえ治ればやらない。だから刑務所で矯正教育を受けさせるより病院に通わせるべきだ」
このような主張が認められれば罪が軽くなる、と言われているからです。そのためとても病気とは思えないような被告でも病気だと主張します。僕はクレプトマニアなどの病気を主張する被告人の証言はほぼ信用しないことにしています。
「病気だから病院に通って治療する。もう二度と万引きはしないと誓う」
そう言っていた被告が裁判が終わって数ヶ月後に再び窃盗の被告人として起訴されていることもよくあります。大抵の場合は病院になど通っていません。自分の犯行を病気のせいにして、かといって病院に通う訳でもなく再犯を重ねる、そんな被告人もたくさん見てきました。
それでも時々、本当に病気なのかもしれない、と思うような被告人に出会うことがあります。
習い事に行っていた九歳の娘を迎えに行く途中にデパートでサングラスなどを万引きした母親がいました。
「別に必要なものじゃないし、欲しかった訳じゃない。でも、どうしても万引きが我慢出来なかった。サングラスをカバンに隠す時、娘の顔が思い浮かんで涙が止まらなかった。だけど、止められなかった」
このように語っていた彼女は本当に病気なのではないかと思います。自分の意思ではもうどうすることも出来ないのです。
また、摂食障害を主張する被告で異常なほどに痩せ細っていて立っていることも覚束ないような女性の裁判を観たこともあります。彼女も原容疑者と同じように
「食べ吐きをするために盗んだ」
と供述していました。
原容疑者は裁判で何と語るのか
もし仮に、原容疑者が本当に摂食障害やクレプトマニアなのだとしたら、彼女1人の力で更正することはまず不可能です。どんなに固く『もう万引きをやめる』『もう食べ吐きをやめる』と誓ったところで絶対にやめられません。本人の意思の強さでどうにかなるものではないのです。医療機関での適切な治療と、そして何よりも友人や家族など周囲の人のサポートがなければ今後も彼女は万引きを繰り返す可能性が高いと思います。
しかし、違法薬物依存性などの人にも同じことが言えますが、いくら病気と言っても違法行為を繰り返せばサポートをしてくれる人は減っていきます。どんなに切実に助けを求めていても気づいたら周りに誰もいなくなっていた、そんなことが起きてしまいがちです。
先日、生活保護を受けている69歳の男性の食い逃げの裁判を傍聴しました。彼はアルコール依存性で、貰った保護費をほとんど酒代で遣ってしまって食べ物を買うことが出来ず犯行に至りました。同じような理由で過去にも同種の犯罪を犯していて、前科は23犯です。おそらく人生の半分以上は刑務所で過ごしていると思います。
「酒さえ我慢できれば...」
そう本人も言っていました。分かっていてもやめられないのです。依存性は彼の人生を壊しました。
原容疑者のニュースを聞いた時、この老人の顔が浮かびました。彼女の今後がどうなるかはわかりませんが、次に彼女の名前を聞くときは良いニュースであることを願っています。(取材・文◎鈴木孔明)
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