日本大学アメフト部問題で、なかなか表に出てこない田中英壽理事長の暴力団との"密接交際"が取りざたされていますが、暴力団と関係根深いスポーツといえば、元祖は野球ではないでしょうか。
近年では、4月4日付の「中日新聞」で<ドラ施設応援団長への強要疑い>、同記事の詳報として5月17日発売の「週刊文春」が、<元暴力団員によるドラゴンズ応援団長"強要"現場に中日新聞記者が同席>と報じています。
世間的には特に話題になっていないのは、暴力団員と関わりがあったのが主要選手などではなくファンだからでしょうか。ですがファンは大騒ぎ。現に今回わたしも、中日ファン男性から、
「おい! 応援団長がヤクザにツメられたんだってよ!」
と鼻息荒く教えてもらってはじめて、この報道を知ったのですから。
そんな中日ファンの男性が同時に教えてくれたのが、この本の存在。
「巨人ファンはどこへ行ったのか?」(イースト・プレス)
著者は「野球部あるある」(集英社)の菊地高弘さん。自身も"元・巨人ファン"でありながら、"元・巨人ファン"は球界最大のサイレントマジョリティではないか、と仮定し、"彼ら"を追いかけるとともに国民的球団だった巨人の、そうではなくなった現状を浮き彫りにするルポです。
"元巨人ファン"のわたしにとって、本書は全力共感の連続でした。まるで「"元彼"(本書で巨人はこう称されている)の良きも悪きものろけも、竿姉妹たちと和やかに語り合う」気持ちで読み進めることができました。一般ファンたちによる、元彼と別れたきっかけから現在の胸の内。今カノたちのピュアな声。駒田徳広さんによる腑に落ちる見解。歴史を知る元球団職員の証言。そして、一途にその彼だけを思い続ける他球団ファンへ、菊地さんが募らせる憧れ。わかる。わかりすぎる。特に、横浜ファンのライター村瀬秀信さんの項は、涙なしでは読めません。
わたしも、彼に会うために東京ドーム前に新聞紙を敷いて3徹したな......宮崎出張まで追いかけたな......全国各地でデートしたな......などなど彼との思い出をリフレインするより強烈に思い出したのが、個性あふれる竿姉妹たちの存在です。
1999年、高校3年生だったわたしは、同時期に巨人ファンになった友達と初めて東京ドームへ行きました。一番安い外野自由席のチケットを買ったものの、国民的球団の自由席は激選区。当然、座れないどころか立ち見最前列まで幾重にも層できるほどでした。
しかし大学生になった2000年、いつものように東京ドームへゆき、立ち見最前列で、打席に入った二岡智宏選手を激烈応援していたときです。
「おう姉ちゃんたち、いい声してんじゃねえか。こっち、入ってこいよ」
パンチパーマに、メンチ切った目つき。がっちり体型の30代男性が、外野自由席から手招きしているではないですか。あからさまなチンピラ口調(本当に上記の通り、Vシネのチンピラ役のセリフのような言葉を使って言った)ですが、わたしたちにとって外野自由席は選ばれし者たちの聖域。すぐに柵をくぐり抜け、男性の隣に行きました。立ち見客たちのうらやましげな視線に、優越感を感じながら。
ふと周りを見渡すと、あることに気づきます。ぎゅうぎゅうの立ち見の一方、外野自由席はスッカスカなんです。30%ほどの人しかいません。指定ではない外野自由席に座るのは早い者勝ち。みんながここに押し寄せて、あぶれた人が立ち見で見ているのかと思っていたけど、どうやら違っていたようなのです。
外野自由席を陣取っていたのは、「G」と呼ばれる私設応援団のみなさまでした。先ほどのパンチパーマをはじめ、いつも笑顔なのに目の奥が絶対に笑っていない、クレヨンしんちゃんの園長先生そっくりな男性。服部幸應しか着ないと思っていたマオカラーを着こなす、痛風を患っているような足取りのスキンヘッド男性。腕の彫り物を見せびらかしていた別のパンチパーマ男性。さらに「G」幹部には、いつも綺麗な女性を連れていたリーダーのような茶髪男性。「魂込めて! 魂込めて!」が口癖の茶髪男性。池谷直樹そっくりな茶髪男性。元ボクサーだという狂犬じみた顔をした茶髪男性。茶髪男性、茶髪男性、茶髪男性......に紛れて、安田大サーカスのHIROそっくりな元力士だという男性らがいました。
で、「G」は持ち回りで「開門担当」人員を出して、要は花見の場所取り係といったように、まっさきにゲート前に並び開門と同時に走り、外野自由席を取るのです。ビニール紐を、ビヤーーーっと引っ張り、はいOK。事情を知らないパンピーが入ってこようものなら、
「あ、すいませーーん、この紐あるの、見えますう?」
と、上目遣いにご退席いただきます。この時点で、外野自由席に人はまばら。でも、立ち見にはずらり。そのうち「G」の面々が人垣と柵をくぐり抜け、集まってきます。
そこでみなさん、野球の応援をする、というか、「野球の応援をする俺たち」に酔いしれ、日頃のストレスを発散するのです。
喧嘩は日常茶飯事。え? 宿敵・阪神ファンとの喧嘩? いえいえ、「G」同士の喧嘩です。あるときは試合中、元ボクサー男性と元力士男性が殴り合いの大ゲンカに発展。
「もぉやめてぇぇぇぇ! みんなちゃんと、巨人を応援してぇぇぇぇ!! 岡島が......岡島が抑えようとしているのに......打球の行方を見守ってえぇぇぇええぇぇ!!」
頭を抱えて大号泣する女性。
「魂込めてぇ! ゴーゴー岡島!(ゴーゴー岡島!)」
喧嘩をよそに、こんなときでも魂を込める彼。千葉ロッテマリーンズの応援団から教えを請うたと噂の、右腕を高く突き上げる仕草をしながら。
わたしも年に一度の球界のお祭り・オールスター戦にて、いかにも調子に乗った大学生らしく中日のユニフォームを着て「燃えよドラゴンズ」を歌っていたら、後ろから頭をグーで殴られ座席からゴロリと転げ落ちたことがあります。
「おめぇぇえよぉぉ、巨人ファンだろおがよおぉぉお。土下座しろオラァァァ」
呂律が回らず目がイったマオカラーがそこにはいました。わたしはとてもきれいな土下座をキメたのは言うまでもありません。
そう、外野自由席は、いつだって"自由"でした。
それから時間が経ちわたしが二軍選手に鞍替えし、東京ドームからめっきり足が遠のいていた、2002年頃のことです。
<東京ドーム 巨人戦で不法転売の暴力団組長を逮捕
東京ドームのプロ野球巨人ー阪神戦の外野席を、警備員や応援団と結託して不法に占拠し、客を座らせていたとして警視庁暴力団対策課などは〜〜〜ら5容疑者を迷惑防止条例違反容疑で逮捕した>(毎日新聞)
「G」の面々が東京ドームを出禁になったことを、風の噂で聞きました。
それからさらに数年後、友達に誘われ後楽園ホールでプロレス観戦していたときのことです。
対面後方に、見覚えのある出で立ちの男性が。彼が持つ横断幕を読むと、「魂込めて!」と書かれています。あ! 「G」の魂込めておじさんだ! こんなところでも、魂を込めている!
ーーそんなことを思い出しながら「巨人ファンは〜〜」を読み進めていた、そのときです。
<東京ドームを出禁になった男>
ああ! こんなところでも、魂を込めている! 菊地さんからの問いに、魂を込めて、答えている!
わたしは魂を込めて生きているだろうか。思わぬ再会に、自分へそう問いかけ、1日1日、魂を込めて生きよう、そう思うのでありました。(文◎春山有子)
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