JFK暗殺事件から半世紀...暗殺研究家と自称真犯人による情報操作の全貌【後編】

2013年11月28日 ケネディ暗殺 事件

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『ダブル・クロス』(編集部注※事件の黒幕と長年囁かれてきた、シカゴマフィアのボス、サム・ジアンカーナから"真相"を聞いたという実弟チャックと彼の名をもらった息子の共著『DOUBLE CROSS』)には、チャックが「組織の噂で知ることになった」話として、サムが呼び寄せた殺し屋の中には、マフィアのボス、カルロス・マルセロの手下で「"射撃の名手"という条件を満たした殺し屋たち」の(『アメリカを~』三九七ページ)チャールズ・ハレルソンとジャック・ローレンスがいたという。

 ハレルソンは米俳優ウディ・ハレルソンの父で、一九七九年五月にジョン・ウッド判事殺害の罪で逮捕された際、「オレはケネディ暗殺犯だ」と口走り、釈放と引き換えに共犯者の名を明かすと当局に申し入れ却下されている。彼にはアリバイがありコカインの影響で嘘を吐いたと後に白状している。

 一方、ローレンスの方は現場近くに務める車の販売業者にすぎず、研究家の中でも特にマニアの人が三千冊の自費出版本の中で「怪しい」と主張しただけで、彼が暗殺者の証拠はなかった。

 イギリス人の著者で暗殺関連で複数の著作のあるメル・アントンは自著『The JFK Assassination』において、『ダブル・クロス』の主張したマフィアのボスたちの事件関与には信ずべき証拠がなく、名が挙がった"暗殺犯"たちは出版時にはおそらく死亡していると思われるが、この本が1970年代に出版されなかったのは彼らからの反論を恐れたためではないか。また、暗殺犯としてジャック・ローレンスの名が出たことは誤りであり、彼の名声はひどく傷ついたと本を批判した。

 これら事情のためか、『ダブル・クロス』の最新ペーパーバック版(Skyhorse Publishing,2010年)では二人の名は削除されている。

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 また、サムの語りでは、CIAが派遣した「実際の狙撃手」にはダラス署の警官ロスコー・ホワイトと、公式上オズワルドに殺害されたことになっている同僚のティピット巡査がいたというが、ホワイト狙撃者説は彼の遺児リッキーと妻ジェネーバの創作であることが明らかになっており、オズワルドに殺害された巡査が実は暗殺部隊の一員だという話はガセネタにすぎない。

 ブラッキーの本(前述)では以下のことも明かされている。

 サムの娘で自伝『マフィア・プリンセス』もあるアネット・ジアンカーナによると、チャックは家にあまり寄り付かないうえ、父は彼を馬鹿にしており彼はいつも父に無心していたという。サムの伝記作家も彼らはあまり深い関係でなく、本に書かれた暗殺の真相を「笑っちゃう内容」「馬鹿げた話」と評した。

 ブラッキーはFBIのジアンカーナ盗聴作戦の責任者でもあるローマーからも話を聞いているが、テープにはチャックのことがほとんど出てこず、彼はシカゴマフィアの活動とあまり関係が無かったという。ブラッキーは、映画『JFK』の大ヒットで事件が金になるのがわかったため本が書かれたと推測した。

 ケネディ暗殺が歴史的事件であったため、ガセネタの量も膨大だ。米政府調査委員会や研究家が過去"容疑者"として挙げた人物の関係者による暴露本や、彼らから話を聞いた研究家の本は「事件の真相」「ケネディ暗殺の真実」という大仰な表現で宣伝されているが、いずれも「事実を正確に示す」「本当の話を書く」というスタンスとは程遠く、『ダブル・クロス』もそのひとつに過ぎなかった。暗殺研究書や犯人の告白録と事実のギャップはこれまで同様、これからも続くだろう。

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Written by 奥菜秀次

Photo by 二〇世紀最大の謀略 ―ケネディ暗殺の真実―

 主要参考資料

・『DOUBLE CROSS』(SAM AND CHUCK GIANCANA ,WARNER BOOKS,1992)

・『DOUBLE CROSS』(SAM AND CHUCK GIANCANA,SKYHOUSE PUBLISHING, 2010)

・『アメリカを葬った男』(サム&チャック・ジアンカーナ著、落合信彦訳、光文社、1992年)

・『二〇世紀最大の謀略』(落合信彦著、小学館文庫、2013年)

・『The JFK Assassination』(MEL AYTON,Woodifield Publishing,2002)

・『THE TANGLED WEB』(Michael J.Cain,Skyhorse Publishing,2007)

・『FATAL HOUR』(G.Robert Blakey and Richard N.Billings,BERKLEY,1992)

・『WITH MALICE』(Dale K. Myers,Oak Cliff,1998)

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