ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャをめぐる問題は、改善するどころか混迷を深めています。
ミャンマー国軍傘下の治安部隊は昨年8月、西部ラカイン州で、ロヒンギャ系武装集団に対する大規模な掃討作戦を開始。この事態を受け、約100万人いるとされるロヒンギャのうち、約70万人がバングラデシュに逃れました。
両国政府は今年1月から、ロヒンギャ難民のミャンマーへの帰還を開始する予定でしたが、準備不足などを理由にずるずると延期。帰還はまだ始まっていませんが、今月27日には、バングラデシュに逃れていたロヒンギャ約60人が自力でミャンマー側に戻るという事態も発生。ミャンマー政府は「帰還難民」として受け入れると発表しました。
なかなか報じられないが国民はどう思ってるの?
では、最大都市ヤンゴンの一般市民は、一連のロヒンギャ問題について、どう考えているのでしょうか。
ラカイン州出身の仏教徒で、現在はヤンゴン中心部の米系ホテル「ベストウエスタン・チャイナタウン」で副マネジャーとして働く男性(26)は「ロヒンギャ寄りの欧米メディアや、政府の顔色を伺うミャンマーメディアの報道には正直、不満を持っている。ロヒンギャとミャンマー国民の双方の視点に立った中立的な報道を望んでいる」と強調。
「政府がロヒンギャ難民に対し、一定の支援を行うことは必要」としながらも、「帰還がなかなか始まらないのは、政府の準備不足だけでなく、大半のロヒンギャがミャンマーを嫌いで、帰りたがらないことも背景にある」との見方を示します。
彼は言葉を選び、慎重にインタビューに応じているものの、「ロヒンギャ」と「ミャンマー国民」を明確に区別しているのが印象的でした。ロヒンギャをミャンマー人と認めていないのは明らかです。
同ホテルの別の男性従業員(28)は「ロヒンギャはミャンマー人でもないのに、国籍付与を要求している。その願いが叶わなければ、(イスラム教徒が多数派の)マレーシアに逃れたりする。私は彼らを好きではない」と流ちょうな英語で語気を強めました。
他方、ヤンゴンの日系企業で働く日本人男性は「ヤンゴンには、イスラム系やインド系の市民が予想以上に多い」と説明。「彼らは一般的なミャンマー人から『カラード』(※)と呼ばれ、差別の対象になっている。ミャンマーは多民族国家だが、差別意識が意外と強い」との見解を示します。
ミャンマー人の約9割は仏教徒とされます。仏教徒のイスラム教徒に対する差別意識や嫌悪感を抜きにして、ロヒンギャ問題を報じることはできないのです。
※Coloredとは「有色人種の」という意味の英語。侮辱的、差別的な表現
宿泊した「ベストウエスタン・チャイナタウン」。欧米系ホテルも増えている
ヤンゴン中心部の「ジャンクションシティー」。バンコクの商業施設にも引けを取らない
ヤンゴン中心部の近代的な街並み。左手前の建物が「スーレースクエア」
19番通りでは、串焼きをつまみに一杯飲める
ミャンマービールの味は抜群。キリンが買収し、経営も安定
ヤンゴン中心部は急速に発展
混沌とするラカイン州とは対照的に、最大都市を抱えるヤンゴン管区は近年、急速かつ着実な発展を遂げています。ヤンゴン中心部には「ジャンクションシティー」や「スーレースクエア」といった近代的な商業施設がオープン。中産階級以上のヤンゴン市民や外国人旅行者らの憩いの場になっています。
一方、路地を一歩入ると、ヤンゴンの昔ながらのレトロな街並みが依然広がっています。中でも「19th Street」(19番通り)と呼ばれる繁華街は、外国人旅行者にも人気。食堂では、各種串焼きをつまみに現地名産の「ミャンマービール」を味わえます。このミャンマービールが実においしい。国際的なビール賞を何度も受賞しているだけあります。
なお、キリンホールディングスは2015年、ミャンマービールを製造・販売するミャンマー・ブルワリー(MBL)を買収。現在はMBLの拠点を活用し、「一番搾り」の製造・販売にも乗り出しています。
次回はヤンゴンのネオン街の闇に切り込んでいきます。(取材・文◎新羽七助)
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