3年もシリアで人質に取られている友人ジャーナリスト・安田純平氏の拘束動画を見て思う事

2018年08月14日 イスラム国 シリア ジャーナリスト 人質 安田純平

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 ジャーナリスト、安田純平(44)さんがシリアで拘束されてから3年あまりという歳月が流れた。生死がわからない状態が長く続いていたが、この7月、立て続けに3回、彼が窮状を求める映像がネット上で公開された。

 特に3回目の映像は大変インパクトのあるものであった。それはこれまでの3年の間に流された映像の中で、最も強くアピールしていた。

 イスラム国が人質を殺害するときに着せたのと同じく、オレンジ色の「囚人服」を着せられた安田さんが草の生えた屋外に(後ろ手に縛られているように見える)座らされている。その背後には銃を持ち顔を隠した人が左右に一人ずつ立っている。安田さんは「私の名前はウマル、韓国人です。とてもひどい環境にいます。今すぐ助けてください。今日の日付は7月25日」と日本語で話したのだ。

 2010年以前に、彼は自身のサイトで【私自身の身に何かが起こった場合でも「自己責任」ですので、「自己」ではない私の家族、親戚一同への取材は一切行なわないよう重ねてお願いいたします】と記している。
 また、2015年にはツイッターで【私は自己責任について否定したことは一度もありません】とつぶやいていて、「助けるな」とアピールこそしていないが、救出されなくてもそれは自己責任だから仕方がないと受け取れるようなことを記している。

 だからなのか、ネット上での反応には次のようなモノが目立った。

【散々忠告を無視して政府批判しておきながら身代金を払って下さいなんて甘ったれた事を言わないで下さい。/貴方の為に血税を溝に捨てるなど断固許しません。/こんだけ大口叩いておいて、『たすけてー』だもんなぁ】

 安田さんがこれだけ窮地に追い込まれても極めて冷淡な反応が多いのだ。こうした意見に影響されてなのか、それとも逆に影響を与えているのか。マスコミの中には、安田さんに対し、根も葉もないデマを話す人も中にはいる。

 テレビでたまに見かけるブルドックのような顔をした、某ジャーナリストはネット番組で次のように語っている。
「聞くところによると、韓国籍を持たれていて日本国籍では入国できないから韓国のパスポートで入った。ほとんどのメディアがそこの部分をカットした。忖度したんじゃないか? 色んなことに」と。

 なぜ、これがデマだと断定できるのかというと、すべて反論できるからだ。

 安田さんが拘束されたのは2015年6月下旬ごろのこと。そのときはトルコ南部から、シリアへ現地人の手引きで入っている。そのため"入国"にパスポートが必要ない。さらには韓国のパスポートというのもあり得ない。日本の場合、男性が外国籍の女性と結婚しても国籍は変わらないのだ。

 そうした根も葉もない荒唐無稽なデマを吐くジャーナリストの話が、ある程度の支持を集めてしまう時代――その事実に私は愕然とする。


 拘束される前、安田さんは歯に衣着せぬ、ツイートで良くも悪くも注目された。

【安倍の「テロリストたちを決して許しません。その罪を、償わさせるために国際社会と連携して参ります 」について、自己責任論者は全力で反対しないといけないんでないの。】2015年2月1日
【イラク戦争は、「独自の情報なんかないから独自の判断なんかできませんでした」と自ら総括している日本政府が完全に米国に巻き込まれた戦争なんだが、後方支援だから戦争じゃない、だから巻き込まれてない、とか本当に思っているとしたらバカとしか言いようがない。】2015年5月15日
【シリアのコバニには欧米からもアジアからも記者が入っていて、フェミニストの若い女性やら学生メディアやってる大学生やらまで集まっているが、日本は経験ある記者がコバニ行っただけで警察が家にまで電話かけ、ガジアンテプからまで即刻退避しろと言ってくるとか。世界でもまれにみるチキン国家だわ。】2015年6月20日

 と強い調子の政権批判をくそ真面目に続け、そのたびに炎上していた。彼は安倍政権に対して怒っていた。こうした彼のツイートを改めて読んでみると、拘束されてから1年後の2016年に公開された「助けてください これが最後のチャンスです」と記された紙を持った彼の画像や、冒頭で紹介した7月末公開の映像での彼の表情とダブった。

 一連のツイートと公開された映像や画像。これらから感じるのは安田さんが一貫して持っている強い意志と怒りの感情である。
 事実、私の解釈について、知人である臨床心理士は次のように話した。

「やはり、日本政府による救出を求めていないというメッセージとして解釈するのが妥当ではないかと思います。目の下内側の皺の状態と眉間の皺のなさから、強い意思と覚悟を感じます」

 拘束前は安倍政権の冷淡で他人事な態度に対して、拘束後は本意でないことを言わせる武装勢力に対し、彼はくそ真面目に怒り続けている――ということなのだろう。彼が「韓国人です」と発言したのは、銃で脅され、メッセージを言わされる中での、せめてもの抵抗だったはずだ。私の話していることは嘘だから信じるなと。極限状態でも、抵抗をやめない彼の強靱な精神力に私は恐れ入った。同じ7月に公表された前回の映像を見た時は拘禁症状が出ているんじゃないかと心配していたが、彼の反骨精神はまだまだ健在らしい(現地の協力者の話によると、3回自殺を図ったという情報もあるが)。


 今後、身代金を使って彼を救出すべきかどうかということに関しては、安田さん自身の考えもあるので、どうすべきかは正直よく分からない。知人であり、同業者であることもあってか、私の個人的な心情としては、身代金を払ってでも救出してほしいと思っている。

 だが、そういう風にして助かることを彼自身が望んでいるかどうか分からない。それに何より日本政府は、身代金は現在、一切払わないという方針なのだ。武装勢力が腰砕けになったときに、自力で脱出するしかないのだろうか。未来は決して明るくないが、知人として、私は彼が無事に生還することを切に願っている。(文◎西牟田靖)

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