写真はアフガンのカンダハルを訪れたときのもの
「サウジアラビア、女性に初の運転免許交付」というニュースを見て、多くの日本人はこう思ったことでしょう。
「えっ、今までダメだったの?」と。
サウジはこれまで世界で唯一、女性による自動車の運転を禁じる国でした。
サウジを筆頭とする厳格なイスラム国家では、シャリーア(イスラム法)に基づき、女性は男性の従属化に置かれています。
女性は自由な外出を許されず、家の外では、身を守るという理由から肌や頭髪を隠さねばなりません。イスラム社会では伝統的に、頭髪も女性の性的魅力の一部として捉えられているのです。
女性が銀行口座開設やパスポートを取得する際は親族男性の承認を必要とし、医療サービスを受けるにも男性保護者の付き添いが必要です。
また、男性は多数の女性を妻にできる一方、女性は家族以外の男性とは会話すら許されず、浮気しようものなら問答無用で死刑か終身刑です。
自由主義の国に暮らす女性からすれば信じがたいことでしょうが、こうした因習がまかり通る国は複数存在します。
従属どころか、女性ゆえに殺されてしまうことも珍しくありません。現にカースト間の差別意識が強いインドやその周辺国、中東などでは「名誉殺人」が日常茶飯事です。
名誉殺人というのは、一家の名誉を傷つけるような淫らな行為をしたとされる女性(妻や娘)を、その夫や親族の男性が殺害することを指します。
一例として、2016年、あるパキスタン女性が夫と離婚した後、別の男性と再婚したところ、女性の家族はそれを不名誉とし、会議を開いて夫婦の死刑を決定、2人を絞殺しました。また同年、勤務先の社長の息子からの求婚を拒否し、自ら決めた相手と結婚したパキスタン女性(19)人が、一族により生きたまま火をつけられて死亡しました。
インドでも、異なるカーストの男性と結婚した女性が家族によって焼き殺される事件が相次いでいます。インドでは2011年、最高裁が名誉殺人に関与した者には死刑を科すとの判断を示しましたが、名誉殺人は一向に減る気配がありません。
国連による2010年の調査によると、名誉殺人によって殺害される被害者は世界中で年間5000人にのぼるとされています。
理不尽な男性優位社会で抑圧されている女性たち。司法ではなく一族の決定により裁かれ、無残に殺される女性たち。法治国家に暮らす我々は、この不条理をどう捉えたらいいのでしょう。「別世界の話」と切り離すほかないのでしょうか。
ただ、外国人であっても、イスラム圏を旅行したり、仕事で訪れたりする人にとっては決して無関係ではありません。以下に2つの事例を記します。
2008年6月、アラブ首長国連邦(UAE)のリゾート地にある美容院で働いていたオーストラリア人女性(29)が、職場の同僚3人に薬物を盛られて輪姦されました。
警察に被害を訴えた結果、犯人たちは逮捕されましたが、彼女自身も「婚姻外の性行為をした」として12ヵ月の禁固刑を科され、、8ヵ月間収監されました。UAEではたとえレイプされても、犯人の自白または4人の成人男性による目撃証言がなければ強姦罪は成立しないばかりか、被害者までもが罪を着せられるのです。
2016年には中東カタールでも、休暇中に薬物を盛られてレイプされたオランダ人女性(22)が、「婚姻外の性行為をした」として身柄を拘束された挙句、執行猶予付き禁錮1年の判決を言い渡されました。
ちなみにカタールは2022年のFIFAワールドカップ開催国です。もし日本が出場すれば、女性を含む多くの日本人が訪れることが予想されます。
同じ時代の、同じ人間社会でありながら、前世紀のごとき家父長制と女性差別がはびこる世界が存在するということを、我々は肝に銘じておくべきでしょう。(取材・文◎霧山ノボル)
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