午前8時半、埼京線車内で事件は起きました。窓ガラス付近で外を向いて立っていた被害女性(事件当時20歳)は、背後にいた男にお尻を包み込むように触られました。およそ20秒ほどお尻を撫でまわされた後、意を決して振り向き男の右手を掴みました。
「触ったでしょ」
その男はそっぽを向いて頷きました。
しかし、次の駅で男をホームに降ろすと彼は態度を豹変させました。
「放せよ、やってねえよ」
付近にいた乗客が彼のコートの袖を掴んで捕まえてくれましたが、彼は抵抗を続けて逃げようとしました。そして彼は着ていたコートを脱ぎ捨て、ホームから線路へ飛び降りて走って逃げていきました。彼の線路内への逃走が原因で埼京線には運休2本、遅延11本の影響がでました。
その後、コートのポケットに入っていた携帯電話と預金通帳から身元が判明し、石川亮太(仮名、裁判当時40歳)は逮捕されました。
被害者はショックで過呼吸に
線路に飛び降りた際に右足を怪我した彼は法廷に松葉杖をついて現れました。よくそんな怪我をしながら走って逃げたものだと妙に感心してしまいました。
罪状認否で彼は自分の犯行をすべて認めました。この種の、痴漢の犯人が線路内に逃走したという事件が報じられる度にネット上では『やってないから逃げた』『冤罪に巻き込まれた』などという話が飛び交ってましたが、彼の場合はそのようなことはなく、ただ単に捕まりたくないから逃げただけの話でした。以前に捕まりそうになった人が線路に逃げたニュースを見たから線路に逃げた、という理由でした。
本当にやっていないならやっていないと主張すれば、今時は被害者の証言だけで捕まることなどあり得ません。以前、頻繁に線路内に逃げた人がニュースで取り上げられましたが、おそらく全員実際にやっていたのだと思います。
「少しくらいなら大丈夫。ちょっとなら気づかないかも」
このような軽い気持ちでした。
彼は軽い気持ちだったかもしれません。しかし事件後、被害に遭った女性はショックで過呼吸になって動けなくなり、最終的には車椅子に乗せられてその場を後にしました。被害結果は重大で、犯人には厳罰を望んでいます。
彼自身、過去に痴漢の前科があり『軽い気持ち』がどんな結果を招くことになるかは当然分かっていたはずです。それでも彼は犯行に及びました。
痴漢をするのはプレッシャーがあるから
事件当日、江戸川競艇に行くために埼京線に乗っていた彼は無職で生活保護を受給して生活していました。
「20歳から30歳までの人生はうまくやっていけてました。30歳すぎに失敗して、自分の人生がうまくいかなくなってきて...。今年こそは社会生活に戻れるように意気込んでたのがプレッシャーになってました。プレッシャーで我慢ができず、おかしくなってしまいました」
このように境遇や犯行動機を話していましたが、何故プレッシャーが痴漢に繋がるのかはよく分かりませんでした。検察官にもその点は聞かれていましたが、
「プレッシャーで痴漢するのは自分の心が弱いから」
と、やはりよく分からないことを話していました。
彼は今後は実家に戻り、父親に仕事を紹介してもらうそうです。
以前に痴漢で捕まった時も父親は彼を実家に連れ戻そうとしましたが、彼はそれを強く拒否し結局実家に戻りませんでした。今回も法廷の場では実家に戻ると言っていますが本当に実家に戻るかは分かりません。正直、あまり信用できない気がします。
線路内への逃走については、
「社会で働く人々に大変な迷惑をかけてしまい、自分がとった異常な行動で社会に悪い影響を与えて申し訳ないです」
と話していました。異常な行動だった自覚はあるようです。
「自分はもう、電車に乗らない方がいい...」
このようにも話していましたが、普通の神経ならばもう電車には乗れないと思います。(取材・文◎鈴木孔明)
【関連記事】
●「女性は俺の陰部を見て喜んでいる」 露出狂の男が裁判で吐露した驚くべき認識
●尊敬する百田尚樹先生の「殉愛」を『ニセモノだ!』と認定した裁判を傍聴してきました
●「僕は死にたくない」 涙ながらに筆談する夫の首を絞め殺害した妻