青年はなぜ自殺に追い込まれたのか...JR新宿駅痴漢冤罪事件

2014年09月19日 冤罪 悲劇 新宿署 痴漢冤罪 自殺

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▲元北海道警の原田宏二さん(左)と
新宿駅構内を視察する遺族の原田尚美さん(11年8月21日撮影)

 2009年12月、大学職員の原田信助さん(当時25歳)がJR新宿駅構内で暴行を受け、新宿署内に連行後に痴漢の疑いで取り調べを受け、釈放後に自殺した事件で9月5日、東京地裁で弁論準備(非公開)が行なわれた。

 原告は母親の尚美さんで、信助さんが死ぬほどの思いをしたのは警視庁の違法捜査の結果だとして東京都を訴えている。このところ非公開のやりとりが続いているが、この日のやりとりで、信助さんの権利侵害が整理された。今後は、審議が具体化し、当時の新宿署長らの証人の尋問が実現する可能性が出て来た。

 弁論準備後の報告会で弁護団側はこの日のやりとりを説明した。警察側の違法行為で、どんな損害を受けたのか? と整理することを裁判長に求められていた。弁護団によると、故信助さんに対する警察官らの違法行為として、以下の点を上げている。

1)違法な身柄拘束による人身の自由の侵害。逮捕されていない信助さんが終電で帰宅することを強く言ったにもかかわらず、警察官らはその訴えを無視した。新宿駅構内の暴行事件の被害者としての事情聴取と騙して、痴漢の被疑者として取り調べた。

2)黙秘権不告知による黙秘権の侵害。黙秘権の告知がなくても、直ちに国賠法上違法とはならないとの判決もあるが、告知されなかったことで、信助さんは心理的な圧迫を受けた。

3)違法な取り調べ及び告知義務違反による人格権侵害。信助さんは暴行事件の被害者の事情を聞いてもらえると信じて警察官の求めに応じて新宿署に来た。身元確認も保険証でしている。にもかかわらず、あえて深夜に、痴漢事件の被疑者として違法な取り調べをした。

 また、被害者とされる女性は信助さんが犯人であることを説明してないし、むしろ犯人ではない供述をしている。容疑が晴れたにもかかわらず、それを告知しなかった。それにより、「生涯、自分は痴漢事件の被害者という烙印を押され続け、痴漢の汚名を着せられていきていくしかない」などの屈辱感、あるいは絶望感に陥ったことは推測できる。

4)故信助さんの自殺(生命の侵害)。

 違法な取り調べであっても、条理上、取調官は、被疑者の生命、身体の安全を保護し、健康を保持すべき義務がある。身柄を解放する時点で、痴漢の疑いが晴れたことを告知しなければならない。心身ともに疲れ果てていることが明らかだった信助さんが、自暴自棄的な行動が出ないように、母親に連絡し、迎えに来てもらうか、警察官が自宅に送り届けるなどの対処をすべきだった。

5)原告の母親に対する不法行為。信助さんの自殺を知った跡に、尚美さんは事実を明らかにすることを求めた。しかし、警察官が適切な対応をしていないこと、新宿駅のカメラには信助さんの痴漢行為は映っていないこと、被害者とされる女性と一緒にいた男性らや新宿駅駅員らが信助さんに暴行している様子が映っていること、痴漢の訴えが存在しないことなどを知らせていない。

 さらには、嫌疑が晴れているにもかかわらず、死亡した信助さんを被疑者として改めて捜査。検察庁に書類送検し、「被疑者死亡」を理由に不起訴にした。この捜査を指揮した者と関与した警察官ら全員が不法行為者とした。

 前回の弁論準備で裁判長が変わり、「原告の権利侵害が分からない」と言われ、整理することが求められていたが、清水勉弁護士は「手続きは順調に進んでいる。基本的な主張は変わっていない。この整理のほうがストーリー的にわかりやすい」と話した。

 自殺に至る心境も不法行為によって生じたことについては、「自殺したくなるほどの精神的苦痛を得たということ。まじめな人であればあるほど、汚名を背負っていかになければならないと思ってしまう。そう思う人がいる。気に病む人、絶望感を抱く人もいる。いろんなことを配慮しなければならない。嫌疑が晴れたことを告知をすればよかった。嫌疑が晴れて自殺をする人はいない。自殺は予見できないが、思い込む人がいるとは想像できる。『嫌疑が晴れたからね』と言えば、自殺は止めることができた」と清水弁護士は説明した。

 次回は11月12日で弁論準備(非公開)。今後の焦点は、証人尋問の人選となる。

Written Photo by 渋井哲也

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