安江敦次(仮名・46歳)を現行犯逮捕した警備員は、彼の姿を一目見るなり「完全にやってる」と確信したそうです。
場所はスカイツリー施設内の階段下、彼は手にスマートフォンを持ち、不自然に膝を曲げて前屈みになっていました。階段の上の方には短いスカートを履いている女子高生がいました。
その後、警察に押収されたスマートフォンには54件の盗撮動画が保存されていました。そこに映っていたのは女子高校生ばかりでした。逮捕されたのは平成30年7月12日、彼が持っていたスマートフォンは同年7月3日に契約したものでした。
安江には前科8件がありました。窃盗、常習累犯窃盗、そして今回の逮捕と同様の盗撮行為による迷惑防止条例違反も2件あり、そのどちらも実刑判決を受けて服役をしていました。
平成25年に常習累犯窃盗で2年10ヶ月の実刑判決を受け平成28年に出所、それから約半年後に今度は盗撮で捕まり6ヶ月の実刑になりました。そして29年の初頭に出所してからわずか10日後に再び盗撮で逮捕、1年2ヶ月の実刑を経て30年の5月23日に出所し、それから今回の事件を起こしました。
常習累犯窃盗は10年で3回以上窃盗やそれに類する罪を犯した者が新たに窃盗罪を犯して初めてつけられる罪名です。どのような犯行だったかはわかりませんが、彼の盗癖はかなり深化していたのは間違いありません。そして今度は、盗撮に走るようになってしまいました。
盗撮をしたのは「悲しかったから」
彼が盗撮を始めたのは平成28年、窃盗での服役を終えて出所してからのことでした。そのきっかけは雑誌の袋とじを見て、「自分でもできるかも、と思った」ことだそうです。
「女子高生が制服を着てる姿が好き」
「女子高生が制服を着てることに喜びを感じる」
という彼はそれから女子高生ばかりを狙って、
「何度も何度もやりました」
と供述していました。
盗撮をやってはいけないということ、もし捕まればまた刑務所に行くことになるということ、それは彼自身ももちろん認識していました。それでもやってしまったのは「悲しかったから」だそうです。
彼が盗撮を始めたのは、彼の父親が亡くなってからのことでした。それから彼は盗撮を止められなくなってしまいました。彼にとって父親は「たった一人の家族」でした。
裁判官はそんな彼に、
「悲しいのはわかるけど、だからって何で盗撮なの? 関係あるの?」
と質問していましたが、それに対しては、
「うまく説明できません...」
と答えていました。
悲しかったから盗撮、という理屈は確かに全く理解できません。理解できるのは、彼が父親を亡くしたことで大きな悲しみを抱いていたこと、そして彼は盗撮行為以外にその悲しみを埋める手段を持っていなかったという二点だけです。
人との触れあいの中でしか癒されない心の傷というのはあると思います。彼のように大切な人を亡くした悲しみや喪失感もそのような類いのものかもしれません。
「拘留中、面会に来てくれたのは更正施設の人だけでした」
という彼には、触れあえる相手どころか気軽に話せる人すらいませんでした。
それでも、ほんのわずかであっても、誰かと繋がっていたい。
彼を盗撮行為に掻き立てたのはそんな彼の心の渇望であったような気がします。
彼にはもう家族はいません。彼自身の行いが招いた結果ではありますが、前科8犯を有する彼にはもう支えてくれるような友人や知人もいないそうです。
彼の経歴を見ると、若いころは調理師の専門学校に通い、卒業後は資格を活かして飲食店で働いていたこともありました。すでに離婚していますが、婚姻歴もあります。
どの時期に彼の人生がおかしくなっていってしまったのかはわかりませんが、犯罪行為を重ねるようになる前は、彼なりに懸命にまっとうな一社会人として人生を歩んでいた時期もあるのです。
この裁判での求刑は懲役2年6ヶ月、というものでした。(取材・文◎鈴木孔明)
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