フェイクニュースもいい加減に!
早朝、小学校に窓ガラスを破って侵入し女子児童の体操服などを盗んだ容疑で藤田知宏(仮名、裁判当時25歳)が逮捕されたという事件はテレビで報道され、彼の顔も実名もニュースで流れました。
この報道はネットニュースやまとめサイトでも少し話題になりました。彼の本名が珍しいものであったことから出身校や経歴などもあばかれ、また彼の顔立ちが端正であったことから『イケメンなのにロリコン』などと、面白おかしく扱うような記事がほとんど、というか全てでした。
逮捕当時、彼は「酔っていて覚えていない」と犯行を否認していたことも面白おかしく扱われる格好のネタになっていました。しかし、実際の事件はネットで書かれていたようなものではありませんでした。
親子にとって忘れがたい日々
「息子には、小さい子どもに興味があるような性癖はありません。絶対にありません。そのことで執拗な報道がありました。私と彼にとって、一生忘れられない苦痛です。一生忘れません」
証人として出廷した彼の父はこのように報道について語っていました。
事件前夜、小学校の同窓会に出かけた息子のことをずっと心配していたそうです。彼は小学生のころ、酷いイジメにあっていました。小学校5、6年生の二年間はほぼ不登校になってしまったほどの壮絶なイジメでした。それは家族にとっても辛い記憶でした。
父親は、
「彼をいたぶった連中の同窓会なので心配はしてました。そういうこともあって酒が度を越してしまったんだと思います」
と、その日の彼の酒量について話していました。
証言台に立った彼は顔立ちも整っている『イケメン』でした。体格も大きく、とてもイジメを受けていた過去があるようには見えません。それは「イジメが辛くて、剣道や柔道をはじめた」からでした。
それでも、
「同窓会は見返すチャンスだと思って、勇気を持って行きました。でも昔の記憶がフラッシュバックして、足が震えました」
と話していたように、相当な恐怖があったようです。
同窓会には当時のイジメの主犯格だった者をはじめ、主要メンバーがみんな揃っていました。格闘技を習って体が大きくなっていても、成長して大人になっても、子供のころに植え付けられた恐怖心は消えていませんでした。震えが止まらなくなったそうです。それでも彼はアピールをしたかったようです。
「もうお前らと俺は対等に話せるんだぞ」
そのアピールはイジメのメンバーに対してではなく、自分自身に対してのものでもあったのかもしれません。彼はお酒で気を大きくすれば震えが止まることに気づきました。酒量は彼の限度を越えてどんどん増えました。
体操服は盗まれてはいなかった!
そこからは彼の記憶は飛び飛びです。学校の中に侵入した記憶もありません。しかし報道されたような「女子児童の体操服などを盗んだ」という事実はありません。
彼が起訴されていたのは建造物侵入罪だけで、窃盗罪での起訴はされていません。記憶はないものの学校に侵入したのは防犯カメラ映像から立証されている事実です。侵入後にそのあたりにあるものを触っていたようで彼の血痕(いつ出血したかは不明)が付着した体操服が見つかったのも事実ですが盗んではいませんし、これだけで性癖がらみの事件だと決めつけることはできません。
結局、小学校に侵入した動機についてはよくわからないままです。
「否定はしないけど違うと思っている」
と話していましたが、過去への復讐心のようなものもあったのかもしれません。
彼は公判後、ツイッターアカウントをつくり事実と異なることを書いているサイトに記事を削除するよう依頼をしていましたが、記事は一つも消されることなく今も残っています。
彼は今もなお、やってもいない罪で顔も知らない誰かに嘲笑され面白半分に裁かれ続けているのです。
彼の犯した違法行為については法の下に裁かれなければなりません。しかし過去と決別しようともがき苦しんだ彼が、何も知らない人間に不当に裁かれる必要は何もないはずです。(取材・文◎鈴木孔明)
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