閉店はもったいない...(写真は一般的なタイ料理)
老舗の有名食堂が閉店するとのニュースが流れると、別れを惜しむ客で途端に行列ができるのは日本だけでなくどこの国でも見られる光景なのでしょう。ただこの年末、タイ・バンコクのとある人気店では客が押し寄せ過ぎたのか思わぬ結末となってしまいました。
タイ・バンコクのスクンビット地区ソイ39で1944年から営業してきた食堂「ヨンリー(栄利)」が騒動の舞台です。この店が人気を博してきた理由は「タイ風アレンジをした海南風西洋料理」という一見不思議な組み合わせの多国籍ミックス料理にあるのですが、まずそうなった歴史から軽く触れさせてください。
戦前の中国・上海。欧米列強などが設けた租界に居住する上流階級西洋人の邸宅には、たいてい海南島出身の中国人がコックとして働いていました。働くうちに西洋料理を覚え、海南風西洋料理を生み出したのです。
そんなコックにはタイへ赴任する外交官や企業家の主人と共にタイへ移住する者もいて、終戦前後にそのままタイで食堂を開店する海南島出身コックが多かったのです。「ヨンリー」もその一つでした。ただ他店と違い、辛い味付けなどでタイ人の口に合うアレンジを加えたことで人気店となったのです。
「ヨンリー」はバンコク日本人街の真っただ中にあることから在住日本人にも名の知られた店です。
そんな「ヨンリー」が2018年末でとうとう閉店することになり、12月に入ると知らせを聞いた多くの食通らで連日繁盛していました。そんな中の12月26日夜、客が注文してから1時間近く待たされるという異変が発生。どのテーブルの客もいぶかっていたところ、理由が判明したのです。
店には兄弟姉妹4人のコックがいるのですが、そのうちのコック長の女性(57)が過労で歩くこともできなくなり、そのうちにとうとう意識を失い倒れてしまったのでした。オロオロして泣き出す他のコックらで騒然となる中、客の一人が救急車を呼んで病院に搬送されていきました。
27日時点でコック長女性の意識はまだ戻らず、集中治療室で人工呼吸器が付けられたままとなっていると報じられました。
おそらく体力的に限界を感じていたことから閉店を決めたのかと思われますが、その判断がかえって過労を招いてしまったとは皮肉なことです。
店の看板メニューはコック長しか作れないため、予定より数日早めてコック長の倒れた26日をもって「ヨンリー」は74年の歴史に幕を閉じたのでした。
余談ですが、26日にその場に居合わせた客の一人がSNSに投稿した内容が話題になっています。他の客全員が食事中だった料理もそのままに会計を済ませ足早に店を去って行く中、その女性だけは自分ができることは満腹であっても目の前の料理を残さず食べて自らの健康を削ってまでも美味しい料理を作ってくれたコック長に感謝することだった、とのこと。この言葉がコック長に届いてほしいものです。(取材・文◎赤熊賢)
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