今年の冬は寒い。
白い息をはき肩をすぼめながら杉並区の住宅街を歩いていると、見るだけでいくらか温まるような赤提灯がさがっています。
南阿佐ヶ谷にあるラーメン居酒屋「鳥よし」。
熱燗で腹の芯にポッと火を灯し、ラーメンを食べてしっかりあたたまることができそうです。
しかしメニューを見てみると...。
▲メニュー
常温ラーメン? ラーメンといえば熱いもの。「カレーが辛い」で怒るというX JAPANのYOSHIKIに「ラーメンが熱い」で怒られないようにしているとでもいうのでしょうか。
寒さをしのぐ前に、珍なメニューへの好奇心が煮えたぎってしまった私ツバキングは、思わずこの「常温ラーメン」を注文してしまったのです。
店内を見渡すと「あたたかい~ポテトサラダ」というメニューも。
ラーメンは常温だけど、冷たいはずのポテトサラダはあたたかいそうです。(「あたたか~い」ではなく「あたたかい~」であるところも良い)
店主は、この世の温度設定にとにかく不満を持っているのでしょうか?
メニューには他にも、珍アンテナがビシビシと反応する文字が並んでいます。値段も同じ「ラーメンライス」「ライスラーメン」の並び。
「この二つは何が違うんですか?」
「同じですよ」
「なんで二つ書いてあるんですか?」
「面白いでしょ。わっはっははははは」
レベルが高すぎて、私にはその面白すぎるギャグを受け止める器がありませんでした。
大きな鍋にグラグラと湯を沸かし麺が投入されました。その横で豚スープと具を作っていきます。ここまでは一般的なラーメンとなんら変わらない作り方。ところが、麺が茹で上がったところからが違っていました。
▲常温に戻す作業
せっかくホカホカになったスープと具を冷たい水につけて冷ましています。
必要なのか無駄なのかわからないひと手間をくわえて「常温ラーメン」が完成。
▲常温ラーメン
確かに常温。見事に湯気も出ていません。
豚肉を卵でとじてネギやノリでアクセントをつけた他人丼をラーメンにしたような一品。
頂いてみた感想は「常温」。
それ以上もそれ以下もありません。スタバでPCを開いてノマドを気取るような意識高い系の女性が、半身浴をするのにちょうどいい温度です。美味いといえば美味いけれど、絶品!! というほどでもない。決して不味くはありません。ひたすら「常温である」ことだけが口内と脳内に去来します。
結果的に常温戻しのひと手間が、必要だったのか無駄だったのかは判断がつけられないまま。
確かに常温なのですが、出前でとったラーメンや放置したカップラーメンのように麺がのびていないですし、麺が常温でスープが熱いつけ麺ともちがうため、間違いなく初めて味わう感覚になります。
「どうしてこんなメニューを作ったんですか?」
「他の人がやってないことをやろうと思ったんですよ」
美味しくないからみんなやらないんじゃないだろうか...。
「常温にするといいことがあるんですか?」
「カロリーが1/3になるんですよ」
これも店主ギャグのようです。
▲マンデラの写真
店内にはなぜかネルソン・マンデラの写真が貼ってあります。
「なんでこの人の写真が貼ってあるんですか?」
「兄弟だからですよ。わっはっはははは」
このギャグも高尚すぎてわかりませんでしたが、おそらく店主に顔が似ているということのようです。何とも言い難いそっくり度はこちらの写真でご確認ください。
▲店主とツバキング
当然、体はまったくあたたまっていないので熱燗を注文。つまみに「あたたかい~ポテトサラダ」を頼みました。
「どうしてあたたかいんですか?」
「じゃがいもの風味は作りたてが一番いいんですよ。だから作り置きもしないんです」
そっちの理由はいきなりマジのやつかよ。
▲ポテトサラダ
ラーメンからは一筋たりともでていなかった湯気が、ポテトサラダからは豊かに立ち上っています。
そして一口。ホクホクのジャガイモの風味で薄めの味付けでも物足りなさはまったくなく、確かに美味しい。餃子も注文を受けてから包むとのことで、味へのこだわりも垣間見ることができました。
ラーメン温度論争に平和をもたらすかもしれない「常温ラーメン」。
お近くにお寄りの際は、立ち寄ってみるのも一興ですね。
⬛️鳥よし
東京都杉並区成田東4-35-27
03-42910622
18:00~24:00
第1.3月曜定休
取材・文◎Mr.tsubaking
【関連記事】
●「阿部定よりおそろしい呪いの神社」|連載・Mr.tsubaking 『どうした!? ウォーカー』第三回
●「メシとコーヒーとデザートを同時に喰らう」|連載・Mr.tsubaking『どうした!? ウォーカー』第二回
●誰もが美女の頭蓋骨に手を合わせる神社|連載・Mr.tsubaking『どうした!? ウォーカー』第一回