ちょうど1年前のこと。『メリー副社長恫喝! SMAPを連れて出ていけ!!』といった週刊誌の報道が大きく話題となった。この記事を掲載した『週刊文春』とは発売前に僕の事務所で打ち合わせた後の事だったが、1年後の今、このような展開となったのは驚きの反面、やはりそうきたかといった印象だ。
■文春誌上での「叱責」がすべての始まり
当時は、ジャニーズ内の派閥問題やSMAPの扱いや立場などから垣間見える世間的な興味からの題材だったが、ジャニーズ事務所の副社長で実質的な経営トップのメリー喜多川さんが自らインタビューに応じる格好となり、極めて異例な誌面となって大きな波紋を残した。
このとき「派閥などない」「派閥があるのなら私(メリー)の責任」と前置きし、「そんな噂があるなら確認する」として今回の騒動の当事者となった飯島室長がメリーさんによって呼び出された。「派閥を作ったのか?」「SMAPと一緒に辞めるのか?」と直に質問を叱りつけるように上から投げかけたが、「そんなことはありません」「そういったことを口にしたこともございません」と全ての噂や情報に対して否定した飯島室長。
ただこのときのメリーさんはそれが演出だったかのような場当たりとも感じた。業界でも名高い敏腕マネ―ジャーの飯島さんを呼び出し記者の前で恫喝するなど、またそれがそのまま記事となって公開されるのを承知で行ったことを踏まえれば、まず勢いだけでここまではしないだろう。
メリーさんは90歳近いとは言え現役の女帝である。計算や影響力も当然に考えているのだろうが、この騒動は言うなれば社内の恥を全国的に晒したうえで疑惑を吹き飛ばすにはちょうど良いという場面だったのだろう。ジャニーズ史上で最も売れたグループであるSMAPというブランドだからこそ、ここにある権限はジャニーズ事務所、そして私、メリーがトップという印象を知らしめた恰好とも言える。
ただ「(噂が本当なら)SMAPを連れて辞めろ」とまで言われてしまった飯島さんは業界をはじめ、当人を知らない人たちにも大きな恥をかかされた場面となったのは言うまでもなく、今回の「飯島辞職」に多大な影響と経緯を残した結果となった。
飯島さんからすればなんで私がこんな目に......といった感じだろう。組織のトップに呼び出されて一方的に恥をかかされることに自分にメリットなどない。叱られて否定してまた叱られて、挙句には出て行けとまで言われたら一般的に考えても「じゃあ辞めてやる」くらいの思いは誰にだって沸々くることだろう。
SMAPをはじめとする多くの人気グループを抱えるチーフマネージャーとして、室長として、またジャニーズ関連会社の取締役まで担っている飯島さんは、お茶汲み事務員という立場から現在まで30年間も組織に身を投じて貢献してきた人物だ。その経緯と誰もが認める実績も重ねてきている立場なのに、この仕打ちはないだろうと周囲も感じていたのは確かである。
1年前に「辞めろ」と言われ、1年後の今「辞めます」という時間は妥当な準備期間だったに違いない。ジャニーズ事務所も創立から50年以上も経ち、設立(法人)からも今月(1月)で41年目となるが、その黎明期よりスタッフとしてジャニーズに貢献してきた人物は僅かであり、飯島さんも20代から現在まで多大なる貢献をしてきた功労者であることは間違いない。
ジャニーズ事務所に限ることではないが芸能界には"人の出入り"が多く、タレントと同じく裏方のスタッフも安定的ではない。とくにジャニーズ事務所は業界の最大手として仕事量と忙しさは半端ではなく、タレントの若い男の子の扱いという部分でも苦労は計り知れない。僕個人の印象からしても、スタッフはみんな疲れているなあと常々思っていた。
ジャニーズ事務所に君臨する"姉弟トップ"に従い、過酷な芸能界での業務をこなし、いらぬ噂や疑惑にも耐えつつ、人間的な尊敬を得られなかった日々は胃も痛くなる毎日だっただろう。相当の立場や収入は得ていたとしてもだ。また、メリーさんが「ジャニーズ事務所の跡継ぎはジュリーだ」と初めて公言したのも1年前だったが、飯島さんからすれば「社長になりたくてやっている訳ではない」という心情で、否が応にも比べられること自体が苦痛だっただろう。ジュリーは、メリーさんの実娘で直々に帝王学を学んできた後継者であることはその昔から知られてきたことだ。それをあえて問題とされ矢面に出された飯島さんは我慢も限界だったということが理解できる。
■マネージャーの退社とタレントの独立は少なくないケース
飯島さんの"退社"で大きな問題なるのが、SMAP(メンバー)も辞めるのかということだ。このような報道が出るということはメンバー個々にも「SMAPを辞める」「ジャニーズを辞める」という時期とキッカケが重なったことが分かる。誰も「SMAPは永遠だ」とは言ってない。SMAPといえどもいつかは終わりが来るのだろうと考えるのが自然だが、普通に考えて今ではない。しかし個々の事情や考えで弾き出された結論である。
天下のジャニーズを自ら去る......。これも時代なのか、以前には考えられなかったが、大きく変わったのは「選択肢」だ。本来あるべき「自由」がなかった80年代。「あれ、これ、やりたい」と言えなかった昔と、可能性の限り自由に動ける現在は全く世界観が違う。ジャニーズを飛び出して成功の糸を辿る元KAT-TUNの赤西仁のような前例もあれば、過去には郷ひろみや元シブがき隊(本木雅弘)など、ジャニーズを出て大きな成功を収めている先輩たちも存在すると思えば選択肢は無限である。
メンバーの脱退やSMAP本体については現在協議中ということだが、多くの問題を整理していると思われる。グループにもメンバー個人にも契約というのがある。テレビ出演や広告など期間に関する重要な仕切りやすでに締結されている出版物などにも大きな影響が残る故、マネージャーが辞めるから解散、即みんな辞めようというワケにはいかない。
もっとも解散の危機をうたった現状から解散に至るまでの時間が短いのか早いのかはこれらの整理により異なってくるだろう。芸能界において、マネージャーの独立に際し担当しているタレントを引き連れていくのはある意味ではよくある話だで、芸能界の雄バーニング系グループではそういった組織拡張は多く見られるが、ことジャニーズに限ってはその前例はない。ジャニーズ事務所は組織としても巨大なエンタテインメントグループを構築していて、タレントの所属や扱いにおいても完全なるピラミッド型を形成しているからだ。
しかし、その強固な体制は諸刃の剣でもある。つまり、ジャニー姉弟ありきの帝国である反面、この姉弟の力が失われたときにジャニーズ事務所はどうなってしまうのかということだ。ジャニーズOBとしては母校を想う気持ちだが、それを歓迎する声は少なくないのも事実である。
また飯島さんのような業界内でも有名なマネージャーが退社、あるいは独立といった話が出れば、それをバックアップする、したいといった企業や芸能界の重鎮も数多く存在する事情もある。芸能界でのトップ企業になるためにしてきたこと、そしてトップであり続けるためにしてきたこと、この裏では多くの苦渋を飲まされた組織や個人も相当数に上ることだろう。思えば信長と謀反を起こした光秀の関係に似ているかもしれない。
この騒動をキッカケに動き出すのは業界の再編につながることと想像が止まない。帝王や重鎮あるいは神とされる立場の方々も永遠ではなく、その終焉を迎える時が次第に近づいてきているのだろうか。足音を聞く耳を立てているのは当のご本人たちだろうとトップ経営者にある不愉快な事情は尽きないものだ。
Written by 平本淳也
Photo by BMiz
Profile●ジャニーズ出身の実業家、作家、投資家。10歳でジャニーズ事務所から芸能界入り、30歳過ぎまでアイ ドルを続け、現在もテレビや雑誌で活躍を続けるなか、月間100万アクセスを獲るカリスマブロガーとしても知られる。22歳のときに物書きデビューして以 来、34冊の書籍を発表。
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