「ブラック企業の発想」テレ朝動画投稿サイトが開設直後に閉鎖した顛末

2014年08月20日 「ブラック企業の発想」テレ朝動画投稿サイトが開設直後に閉鎖した顛末

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tvasahidouga.jpg▲ネット上で非難轟轟となったテレ朝動画投稿サイトの利用規約

 

 テレビ朝日が開設した動画投稿サイトが、サービス開始直後に閉鎖するという珍しい展開を見せて話題になっている。閉鎖せざるを得なくなった最大の理由は規約の酷さで、「ギャラとか一切発生しないから」「お前らが投稿した動画はテレ朝が勝手に使う」 「動画素材は我々が好き勝手に編集する」「裁判沙汰になったり何か問題があったらお前らが賠償金を全額払えよ?」というステキすぎる仕様。リスクを全てネットユーザーに押し付け、自分達は美味しい所だけを頂こうという、絵に描いたような日本の大企業の本音である。ある意味でこれも「ブラックの発想」 だと言えよう。

 最近になって、ワイドショーなどではTwitter炎上騒動などを取り上げ、コメンテーター が「ネットリテラシー」を説くケースが増えて来たが、今回の酷すぎる規約など「まずお前らがネットリテラシーを学べよ」と言いたくなる。

 さて、そんなネットにもブラック企業の流儀を持ち込んで大失敗したテレ朝様ではあるが、テレビ屋のネットに対する妙に差別的な感覚は今に始まった事ではない。むしろ今の方がテレビ業界が苦境に立たされている分だけマシになったとも言えるだろう。

 例えば、私がまだマジメにジャーナリストらしき活動をしていた00年代中頃など、何か面白いネタを見付けるとすぐにテレビや出版社(場合によっては新聞社)などからお声が掛かった。新聞社はごく普通に取材の申し込みである場合が殆どだし、出版社の場合は少額ではあるが情報提供の対価を支払ってくれるので特に問題はなかったのだが、酷いのはテレビ屋である。連中はまず金は払わない。

 しかもリスクを背負う気もない。したがって、情報提供側に何のメリットもないのだ。呼ばれて局に行ったのにタクシーチケットすら出して貰えずに交通費分だけ赤字という事も多々あった。当時は「ネットを拠点に活動しているヤツなんか出たがりの素人と同じ」という見方しかして貰えなかったのだ。連中の本音は今も昔も 「テレビ様に使って貰えるだけ有り難いと思え」である。

 今でこそネットを拠点とするジャーナリストが認知されてきたが、10年も前は何かの現場で媒体がネットだと言うと鼻で笑われ相手にされなかった。私自身も警察に「ネットのジャーナリスト? ふざけてるの?」と侮辱された事が何度かあるし、記者会見場で揉めた事も一度や二度ではない。当時唯一助けてくれたのが梨元勝氏で、生前の梨さんは「荒井ちゃんさ、ああいう場でネットと言うとバカにされるから、次からはボクの名前使って入っちゃっていいよ」とまで言って下さった。同時に「何か面白い話が取れたら教えてね」というプロの凄み(笑)も見せてくれたが、あの当時そんな対応をしてくれるマスコミ人など他にいなかったように思う。今やニコニコが記者会見に入れたり、国会中継をしているが、そんな状況になるなんて夢にも思えなかった時代だったのだ。

 そんな状況だったからこそ、テレビ局から打診(頼み事) があっても、9割方は今回のテレ朝規約以上に内容が酷い。直接私が頼まれた実例では、こんな話があった。

 あるテレビ局(一時期韓流騒ぎで大炎上した赤坂方面のあそこ)から連絡があり、有名人のゴシップネタをネットに書いて欲しいとのこと。当時の私は個人ブログに数万人のユニークアクセスがあり、さらに大規模な情報サイトでプロデューサー職にあったため、それらとの提携の話かと思ったら大間違い。なんと2ちゃんねるに自作自演で書き込みまくれというお達しだったのだ。

 何がしたいのかよくよく聞いてみると、とある芸能人ゴシップを取り上げたいのだが、いまいち裏が取り切れず、またよく裁判を起こしてくる事で有名な相手だったため、一回ネットを噛ませたいのだとか。それをワイドショーで「こういう情報がネットで話題になっています」と、しれ~っと取り上げる形にしたかったのだそうだ。

 今から10年も前の話なので、まだTwitterやSNSが存在せず、ネットといえば2ちゃんという恥ずかしい思い込みも仕方ないとは思うが、それにしても2ちゃん情報を元にした報道って何なんだろう......。

 しかも訴えられたら嫌だからという理由でネットに悪者役を押し付けようという魂胆も、腹が立つ前に情けない。なぜそんなヘタレた連中が報道特権に守られているのか意味が解らない。これなら良くも悪くもネットの突撃厨の方がよほどリスクを背負っているではないか。

 その件はさすがに得るものがないので断ったが、私ごときにあんな依頼が来るという事は、当時他でも、また他の局でも、同じような事を当たり前のようにやっていたという事だろう。これが当時のテレビ局のネットの使い方である。

 またそんな事をやらかしておいて、何かあるとすぐに 「ネットによって日本の若者が~」 だのとしたり顔でネット批判を展開する。私が直接知る限りでは、ネットの匿名性を悪用して散々アコギな商売をしていたのは "壊れた若者" でも "ネットウヨク" でもなくテレビ局だ。

 今やTwitterという便利なツールが定着したので、ワイドショーなどで飽きるほど 「いまTwitterで○○が話題に!」といったどうでもいい話が垂れ流されているが、あれの源流は上記のような話である。報道特権を持ち、素人には真似出来ない調査能力を持つはずのテレビ局だが、今も昔もネットだけで拾い集めたような胡散臭い情報で番組を作るのが大好きなのだ。もし仮にネット業界に大きな規制でもあれば、真っ先に困るのはテレビ局であろう。その割に 「ネットごと規制しちゃえ!」 という本音が見え隠れするのが不思議でならない。

 そんな「ネットはいくら悪者にしても大丈夫!」「リスクは全部ネットユーザーに!」という考え方しか出来ない輩が、既存のテレビ商売で行き詰まってネットビジネスに参入しようなど片腹痛い。もしネットで成功したいならば、まずはネットに対する妙な差別心を取り除く事から始めねば、まともなスキームは組めないだろう。

 今回慌てて閉鎖したテレ朝の動画サイト様におかれましては、半年ROMってから出直し下さいと愚見を申し述べさせていただきます。

Written by 荒井禎雄

Photo by テレビ朝日より引用

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