さいたまスーパーアリーナ
コンサートやスポーツインベントのチケットに関する、不正転売を禁止する法案「特定興行入場券の不正転売禁止法」が参議院本会議で可決、成立し、来年6月中旬に施行されることが報じられたのが12月8日。
その4日後の12日には、無関係とばかりに転売と、それに端を発した詐欺行為が横行していたのをご存知でしょうか。
標的となったのは、韓国、日本、香港で開催されるアジア最大規模の音楽イベント「2018 Mnet Asian Music Awards」、通称MAMAのさいたまスーパーアリーナ公演。
BTSをはじめTWICEやWanna One、AKB48グループの宮脇咲良らが所属しているIZ*ONEなど、名だたるK-POPアーティストが一挙集結したほか、急遽、超特急が唯一の日本発グループとして出場するなど、アイドルファン垂涎のラインナップとなっていたのです。
が。開演数時間前のツイッターを確認すると。
<MAMAチケット詐欺られた。6万円バイバイなんだけど>
<MAMA in japanのチケット2枚求めてます。チケット詐欺にあってしまい、もう新幹線もホテルも予約したのに本当に悲しいです。どうか譲ってください。よろしくお願い致します。定価以上出せます>
<ただ今現地にいるのですが詐欺でドタキャンされてしまいMAMAの2連チケットを切実に探しています。席は問いません。心当たりのある方はどうかよろしくお願い致します>
<MAMAのチケット詐欺にあいました。急遽で難しいとは思いますが譲っていただきたいです。〜7>
悲痛な叫びが次々と掘り起こされます。アカウントを確認すると、下は中学生からの若者ばかりです。
彼女たちのほとんどが、ツイッター上での取引の末での被害。<譲ります>などの書き込みに飛びつき、チケットが手元に来ることを疑うかけらなく信じ、言われるままに金額を振り込み、当日になって連絡が途絶える......というパターンが多いようです。
実際に筆者も、ツイッター上での取引を試みたことがありました。定価1万円のBTS某公演のチケットを、<4.5〜、即決7.5>と、オークションのように提示していたアカウントに「6万円で購入したい」と告げると、
<今、6.1が最高額です>
と、間髪入れず釣り上げるのです。ですが、こちらから「購入時に領収書を書いてほしい」と言うと、
<悪質なことでしたらお断りします>
と、交渉決裂。金銭のやり取りで領収書をもらうことは悪質な行為なんだっけ......? と不思議な気持ちになりましたが、結局彼女はコンサート当日の公演数時間前まで購入を呼びかけていたので、自分が望む金額まで釣り上げることが難しかったのかもしれません。
こちらの要求をたてに交渉決裂、という例はよくあるパターンのようで、たとえば、こんなやりとりがツイッター上では確認できます。
「チケットは当日手渡しするけど、高額の現金を持ち歩きたくないので、料金は事前に振り込んでほしい」という販売者。購入者が「詐欺が怖いのでチケットの写真を送ってほしい」とまっとうな要求をすると、「チケットの写真を悪用されかねないので送りたくない」と拒否。購入者は当然、「わたしも怖いから、やっぱり現金とチケットの交換にしたい」と望むと、「なぜ急に振込の話がなくなったんですか? 話が変わる人を信用できません。不快です。お引き取りください」と、ブロック......。
また、最近よくある、現金ではなくamazonギフト券での支払いを要求するタイプとしては、こんなことも。
購入者が詐欺を疑い、amazonギフト券の発券番号を伝えることを渋り、チケット写真の送信を要求すると、販売者は「今更そんなこと言われても......。それならキャンセルさせていただきます。ごめんなさい」と、交渉決裂。かと思いきや、是が非でもMAMAに行きたい購入者は平身低頭地べたに這いつくばります。「ですよね。ごめんなさい。軽率な態度でした。本当にすみません。ちゃんとギフト券番号を送らせていただきます」、ですが無情にも、チケットが手元に届くことはありませんでした......。
さて、被害者は若者、とは書いたものの、加害者も下は中学生から存在するのが、ツイッターチケット転売詐欺の特徴です。
たとえば、販売者が被害に遭う、こんな例も。
ツイッター上で交渉成立した高校生同士。お互いの中間駅でチケットの受け渡しをする約束を取り付け、購入者は「終電でしか行けない」と、深夜待ち合わせを指定。販売者はタクシーで待ち合わせ場所にゆくと、終電から駆け下りてきた購入者に、「電車いっちゃうから! 早く!」と急かされチケットを差し出すと、そのままチケットだけをかっぱらわれていった......という山賊的手口に遭ったのです。販売者はのちに、「親戚の不幸で行けなくなったのに、こんな思いをするなんて。タクシー代1万円もした」と嘆きのツイートをしたのでした。
さらに、こんな荒唐無稽な出来事も。
「チケットが1枚余っています。同行者求む」という中学生の販売者と交渉が成立、当日、会場で無事チケットを受け取り、料金を支払い、念願のMAMAを観覧中だった大学生の購入者。すると突然、警備員が2人の肩を叩きます。と、ここで、販売者が「わたしは詐欺を働きました」と白状。一体なんのことかわからない購入者を会場に置き去りに、販売者は警備員に連れられ去ってゆきました。
しばらくして、唖然とする購入者の前に現れたのは、同世代の女性。なんと彼女、「あの販売者と交渉が成立したけど、『チケットが当選したはいいけどお金がなくて支払えない。1枚譲るので、2枚分のチケット代を払ってくれないか』と言われ、2枚分を振り込んだ。その後音信不通になった」という、詐欺のカモだったのです。つまり販売者は、タダでコンサートに来ただけでなく、購入者の代金を得てプラス収支になっていたのです。
販売者の本名を聞いていたという彼女は、警備員に事情を説明し、無事入場できたといいます(近年、チケットには当選者の名前が印字され、座席が特定できるため)。が、気まずさ漂う中での観覧に、のちに購入者は「コンサートを楽しむどころではなかった」と無念を吐露していました。
やることが大胆すぎる中高生たちの一方で、ちょっとほっこりしてしまうこちらの手口も紹介しましょう。
「チケットを譲る前に条件がある。その条件をクリアした人たちの中から抽選する」という販売者に接触した購入者。その条件とは、「ファッション通販サイト『ショップリスト』アプリの友人紹介URLを送るから、そこからアクセスして会員登録してほしい。その後、『招待ポイントゲット』ボタンを押してほしい」というもの。なんでも、ショップリストは友人紹介すると双方に600ポイントが入るようなのです。
素直に登録し、ポイントをゲットした画面もスクショし、「OKです! 抽選参加完了しました!」と、販売者からお許しをもらった購入者。それから音沙汰なく数日後のMAMA前々日、さすがにおかしいと感じた購入者は「これ、抽選しないですよね?」と販売者に問いましたが、そんなの誰もが最初気からづいてたよー! ズコー! と他人事としてはずっこけてしまうのでした。
一応、誰も損はしない手口ですが、のちに購入者は、「人の弱みに付け込んでちまちまポイント集めて買い物かよ」と悪態をついていました。
「嘘を嘘であると見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい」と、西村博之氏が発言してから約20年。転売防止に必要なのは法律ではなく、まずまっさきにネットリテラシー教育を徹底することなのかもしれません。(文◎春山有子)
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