オヤジジャーナルの特徴は「辛口で、上から目線で、でも下世話」なところだ。世の中を憂いながら次のページではゴキゲンに風俗店の特集をしている。これを嘲笑するのは簡単だ。でも上半身と下半身があるのが人間だとすると、いや、もっといえば矛盾を抱えるのが人間であるとすると、これを認めないと味わいがなくなる。
■とにかく安倍政権がキライなおじさんの叱責
「日刊ゲンダイ」というタブロイド紙がある。論調は激しい。たまに罵倒もある。でも「毎日真剣に怒っているおじさん」だと擬人化して読み始めたら、なんだかやめられなくなった。いつのまにか心の中で「ゲンダイ師匠」と呼ぶようになった。師匠の小言や叱責がたまらない体になってしまったのである。
このゲンダイ師匠、とにかく安倍政権がキライなのだ。毎日怒っている。そして実は安倍首相もゲンダイのことを気にしているようなのだ。今から2年前、私の中では伝説となった記事があった。
・「ある夕刊紙は...」愛読者の安倍首相、日刊ゲンダイを批判?(2014年2月13日)
安倍首相の衆院予算委員会での発言。
《「ある夕刊紙は私のことをほぼ毎日のように〈人間のくず〉と報道しております。私は別に気にしませんけどね」と笑いながら受け流した。》
ここまで紹介してゲンダイ師匠は次のように書く。
《どうも日刊ゲンダイを指しているようだが、(略)本紙は首相のことを「ボンクラ」「嘘つき」とは表現したが、一度も「くず」とは報じていない。》
「ボンクラ」「嘘つき」とは表現したが、一度も「くず」とは報じていない。なんという切り返し。そして《麻生副総理と同様、熱心な本紙読者として知られる安倍首相。今後は2人一緒に細心の注意で熟読してもらいたい。》
記事中の安倍首相の写真には「本紙読者として知られる安倍首相」というキャプションがあった。このあてこすり合い、言い合い。その昔プロレスラーの長州力と橋本真也が記者会見で「おいコラ、タコこら」を互いに言い合う「コラコラ問答」というのがあったのだけれど、この記事は「安倍VSゲンダイ師匠」のコラコラ問答である。
そして先日、また事件が勃発した。4日の衆院予算委員会で民主党議員が「言論機関が権力者の意向を忖度し、権力者への批判を控えるようになるのではないか」「安倍政権に批判的なテレビキャスターやコメンテーターが次々と番組を降板している。民主主義の健全な発展にもマイナスだ」と問うたところ、
「今日、帰りにでも日刊ゲンダイを読んでみてくださいよ。これが萎縮している姿ですか」と安倍首相は答えたのだ。ゲンダイ、国会で2年ぶりの登場。
これに対し翌日のゲンダイ師匠は「日刊ゲンダイを読めとは恐れ入いる。」「国会の場で安倍サマのお墨付きを得てしまった以上、今後も必死で報道の自由を行使しなければならないが、そんなに愛読しているのなら、ぜひ記事の内容もきちんと理解してもらいたいものだ」と応戦。安倍首相相手だけではない。「かくもオレ様政治をつけあがらせた大メディアの腐敗政堕落と寒々しいほどの野党の無力」。みんなバッサリ!
「一部の特殊な例を挙げて、それが全体に当てはまるかのように丸め込むのは、典型的な詐欺師の手法だ」。ゲンダイ師匠、自分の特殊性を自覚している。
そういえば、羽生結弦がソチ五輪で金メダル当確の演技を見せたとき、ゲンダイ師匠の見出しは「本紙もケチつけられず」(2014年2月15日)だった。
安倍首相対ゲンダイは今年も追いかけたい。
Written by プチ鹿島
プチ鹿島●時事芸人。オフィス北野所属。◆TBSラジオ「東京ポッド許可局」◆TBSラジオ「荒川強啓ディ・キャッチ!」◆YBSラジオ「はみだし しゃべくりラジオキックス」◆NHKラジオ第一「午後のまりやーじゅ」◆書籍「うそ社説 2~時事芸人~」◆WEB本の雑誌メルマガ ◆連載コラム「宝島」「東スポWeb」「KAMINOGE」「映画野郎」「CIRCUS MAX 」
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