ドナルド・トランプがアメリカ大統領選に勝つとは驚いた。「現象としてのトランプ」には興味津々だった。白人の不満だとか格差だとか、アメリカの今を知れたからだ。しかしそれはあくまでヒラリーが勝つという前提での"アメリカ事情のお勉強"という意味で。
今こうして「現象としてのトランプ」ではなく「現実としてのトランプ」を突き付けられるとビビる。「アメリカ、お前そこまで悩んでたのか....」と。
さてここからはひとつのキーワードについて書きたい。
トランプが勝った翌日。朝日新聞の「天声人語」の冒頭は『派手な演出で知られる米国のプロレスに、ドナルド・トランプ氏が参戦したことがある。』だった。いきなりプロレスが引用された。
トランプはプロレスで学んだという説を、私は今年3月にラジオ番組で話したことがある。「荒川強啓デイ・キャッチ!」(TBSラジオ)で紹介したところ、けっこうな反響を呼んだ。
2007年4月1日「レッスルマニア23」。ここでトランプはWWEの「悪のオーナー」ビンス・マクマホンと対決している。あの経験はパフォーマーとしてのトランプに大きな影響を与えたはずだ。トランプが演説で相手を小馬鹿にしたり、肩をすくめたり、舌戦時の顔芸。刺激的なショーマンシップにサプライズ。あれはビンスの芸そのものなのである。
番組ではコラムニストの斎藤文彦(フミ斎藤)さんにも取材した。アメリカンプロレスと言ったらこの方だ。斎藤さんは「トランプはビンス・マクマホンをパクッています」と話してくれた。
言動だけではなくビンスの手法にも影響を受けているという。WWEのリングではパワハラもあればタブー破りもある。現実ではアウトなことがWWEのリングではゆるされる。刺激的なエンターテインメントだから。
トランプは現実社会にその方法論を持ち込んでいるという。タブー破りに「思想」をかぶせたら「主張」になるというマジックである。ハレンチさの中に仕掛けられている、ある層には溜飲を下げさせる「言葉」。まさにWWEで学んだと言えまいか。
ビンスとトランプは長年の友人でもある。2000年代前半にトランプはリアリティー・ショーに出演して『お前はクビだ!(You're Fired)』という決めセリフで人気を博したが、このセリフはもともとビンスのもの。さらにさかのぼると、88年と89年の大イベント「レッスルマニア」はトランププラザで開催されている。
年齢がほぼ同じで、共にビジネスで成功して、父親が偉大で、おまけにカツラ疑惑まで同じ2人は、出会ってから20数年後にきっちりリング上で「ネタ」を回収する。それが2007年だ。
対決時のテーマは「億万長者対決」。代理のレスラーを立て、負けた方が頭を剃り上げる髪切りマッチとなった。カツラ疑惑を利用したのである。ツルッパゲになったのはビンスだった。
トランプが新しい大統領に決まったあと、あらためて斎藤文彦さんに「トランプが勝った理由をプロレス的に言うとどういうことでしょう?」と聞いてみた。
「今回の組み合わせでは、トランプさんが絶対的なヒール(悪役)でした。ヒラリーさんは女性初の大統領を目指すという意味でも、どう考えても絶対的なベビーフェイス(善玉)でしたよね。これなら最後はヒラリーが勝つのがふつうです。ところが......」
ご存じのとおり、ヒラリーの人気が思いのほかあがらなかった。それどころか既成政治家、既得権益の代表としてむしろ悪いイメージが増幅していった。これをプロレスではなんと呼ぶか。「ヒールターン」である。
「ヒラリーさんのほうが悪役にされちゃったんですよね......」(斎藤文彦)
ナチュラルヒール・ヒラリー。
プロレスでは時折、悪いことばかり言う悪役のほうが、善玉を演じるいけすかない奴より人気が上回ることがある。「本音を言っている」と好感度があがるからだ。今回のトランプとヒラリーの関係性そのものだ。
しかしそれはあくまでリングの上での話。現実の世界で、ましてや大統領選で差別発言を連発する人が容認されるとは......。斎藤さんも憂いていた。トランプとアメリカはどうなるのだろう。「現象としてのトランプ」ではなく、「現実としてのトランプ」というシビアな展開がこれからはじまる。
Written by プチ鹿島
Photo by wikipediaより
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