DVが原因で別れた元交際相手、益田晋吾(仮名)からの電話は1000回以上に及びました。留守番電話に残っているのは、
「そうやって逃げてるなら死ね」
「もう落とし前つけさせてもらう」
「明日から動くからな」
「もう死ねよ。今、人がいないときに死ね。死ねよ」
などという言葉です。
メールも1130件送られてきていて、実際に家にまで来たこともありました。被害者女性が警察に相談した結果、彼に対して接近禁止命令が出されましたがそれが守られることはありませんでした。その後、電話の内容が脅迫罪にあたるとして彼女は被害届を提出し彼は逮捕・起訴されました。
別れたとはいえ、以前は交際していて同棲もしていた二人です。何故こうなってしまったのでしょうか?
「一言でも謝ってほしかった」
それが1000回以上も電話をかけた理由でした。では彼は彼女に対して一体何を謝ってほしかったのでしょうか?
被告人質問の場で彼は彼女との同棲生活を語りました。
暴力を受けていた"男"の方が法で裁かれた
「出会ったのは台東区浅草です。当時、私は吉原の風俗店で主任として勤務していて、彼女はその店でコンパニオンとして働いていました。付き合いはじめてからすぐ同棲するようになりました。
彼女は毎日お酒を飲んでいました。安定剤も飲んでいました。彼女は酒癖が悪くて、酔うと暴言を発したり、置時計を投げつけられたこともありました。そんな毎日なので、常に体のどこかにケガをしていました。
彼女は2本目から目が据わります。私の額をどついてくる。ビール瓶を取りあげると窓を開けて『暴力をふるわれる』と叫んだり、110番通報も何回もされました。酔っぱらって奇声をあげている彼女の身体をつかんで止めるとまた『暴力だ』と叫んだり『飛び降りてやる』と自殺をほのめかしたり、実際に洗剤を飲んだこともありました」
彼の話を聞いていると、どちらが被害者でどちらが加害者なのかわからなくなります。この後もまだまだ彼の話は続きます。
「酔っぱらって暴れている彼女に部屋を追い出されたこともありました。というか、月2回は追い出されて野宿をさせられました。何度も別れようと思ったけど、別れてもし店に迷惑がかかったら、と思うと別れられなかった」
その後、彼は彼女に「店を辞めてくれ」と頼まれ勤めていた風俗店を退職します。彼女から、彼女の両親の仕事を手伝ってほしいと頼まれたからです。
しかしこれは彼女のウソでした。彼女は過去に両親の預金約一億円を使い込んでいて、それが原因で両親とは絶縁状態にあったのです。何故彼女がこんなウソをついたのかはわかりません。
ですが、風俗店を辞めたことで別れられない理由はなくなりました。彼はその後、トラックドライバーに転職してすぐ彼女と別れて同棲生活を解消しました。ようやく解放されたのです。
しかし、別れてもまだ彼女と彼女の酒癖から解放されたわけではありませんでした。酔っぱらった彼女が新たに就職した彼の職場に電話をかけてくるようになったのです。
「あいつは犯罪者だ!」
「あいつは有罪判決を受けてる!」
実際に彼には前科があり、執行猶予付きの有罪判決を受けていました。この彼女の電話でそれが会社に知られてしまい彼はクビになってしまいました。
「全部、壊された」
そう彼は話していました。だから「一言でも謝ってほしかった」のです。1000回、という回数に彼の凄まじい怒りを感じます。今後のことですが、
「彼女とは完全に縁を切る。彼女にも彼女の関係者にももう連絡は一切しない」
と約束していました。
いくら同情できる事情があったとしても、彼のしたことは脅迫罪の構成要件を満たしている犯罪行為です。また回数の多さからも、悪質な犯行と言わざるをえません。
彼は接見に来た弁護人にこう洩らしていたそうです。
「自殺することも考えた」
勾留されている中で彼の精神がどれほど追い込まれていたとしても、裁かれるのは彼の方です。彼への求刑は『懲役10ヶ月』でした。
取材・文◎鈴木孔明
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