取り壊し中かのように足場の組まれたビルが夜になると小さな灯りを点けた!
先月、東京・八丈島の「闇スナック」が摘発されてニュースになりましたが、その実態は、単に韓国人のおばちゃんが無許可でスナックを営んでいただけ。
あんなのはよくある話で、闇でもなんでもありません。外国人がらみの闇というのは、もっとディープで危ういものです。
私がその一端に触れたのは、ちょっとした偶然からでした。雑誌の取材で千葉県を訪れたときのことです。
昼下がりの山道を車で走行中、下りカーブにさしかかったところで一つの立て看板が視界の片隅に映りました。
廃墟のような雑居ビルの前に、「マッサージ」と書かれた看板がぽつんと置かれていたのです。それは田舎の山道にはそぐわない、どこか妖しい匂いのする看板でした。
気になったので、その日の夜、ふたたび同じ道を通ってみることに。
街灯もまばらな山道に入り、現場のカーブにさしかかると、暗闇の中にその看板だけがぼんやりと浮かびあがっていました。
風俗ライターとして十数年、数多の暗黒スポットに潜入してきましたが、これほど異様な物件は見たことがありません。
ちなみに、この辺りは不法投棄の巣窟であることに加え、黒人がたむろするヤードや産廃処理場もあり、昼間でも近づくのがためらわれるエリアです。
勇気を出して入口に近づき、ドアに手をかけました。
が、ピクリともしません。
ドアの横にボタンがあったので、押してみました。
すると、中からガサゴソと物音がして、ギィッとドアが開き、ピンクの灯りの中から痩せ細った不気味な爺さんが現れました。
「いらっしゃいませ」
――初めてなんですけど。
「うちは40分8千円ね。今日は女の子が1人しかいないんだよね。中国人だけど、かわいい子だよ」
――顔見せはできますか。
「そういうのはやってないけど、大丈夫、かわいいから」
一抹の不安を覚えつつ、1万円を渡すと、「こちらへどうぞ」と爺さん。
内部は思いのほか広く、ベニヤで仕切られただけの小部屋が10コほど。小部屋の入口にはピンクのカーテンがかかっていました。
爺さんがそのうちの一つを開けると、赤いボディコンを着た、30代半ばぐらいの女性が立っていました。
彼女は「よろしくお願いします」と挨拶するや、恥じらう様子もなくスルスルと服を脱ぎ始めました。肉体労働でもしていたのか、筋肉質でごつい身体です。一緒にシャワーを浴び、小部屋に戻って一通りのサービスを受けたあと、話をうかがってみることに。
2年前に中国福建省から来たという彼女の名はオウさん。「福建はどんなところ?」と尋ねると、タブレットを取り出して写真をいろいろ見せてくれました。故郷の農村や町の景色、そして友人たちの写真を懐かしそうに眺めるオウさん。
――ところで、なんでこんな変なところで働いてるの。マッサージなら市街地にもあるでしょう。
「よく分かりません。中国人の知人にここを紹介されたんです」
――どうして日本に来たの。
「お金を稼ぐためです。借金あるから、働かないといけません」
――ここに来る前は何をしてたの。
「工場とか畑で1年間、働いてました。でも、給料が安くて借金が返せない。だからマッサージしてます」
話をきいて、やっぱりなと思いました。日本は技能実習生という名目でアジア各国から若者を招いていますが、その実態は最低賃金を下回る薄給の奴隷労働です。挙句、毎年5千人を超える失踪者が出るという異常事態になっています。
さらに最近は、こうした失踪者を食い物にする、中国人による闇の不法滞在ネットワークが存在します。もしかしたらオウさんも、そういう連中にハメられてアングラ風俗に流されたのかもしれません。
「あと1年がんばったら中国に帰ります」というオウさんですが、この異常な環境下で心身のバランスが保てるのでしょうか。
帰り際、爺さんは「またお願いね」とスタンプカードをくれましたが、次に訪れたとき、この「山の売春宿」は跡形もなく消えているような気がします。(取材・文◎霧山ノボル)
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