日本全国における万引き被害総額は、年間で一兆四百七億円(平成27年・推定)に達していると試算された。万引き老人やベトナム人による犯行は相変わらずに頻発しており、手に負えない連携を駆使する組織化された集団万引きグループも各地に多数存在しているから、当然の結果といえるだろう。
現場に携わる人間からすれば、決して大げさな数字ではなく、むしろ少ないように思えるほどだ。最近の風潮をいえば、セルフレジを悪用して商品を盗む手口が急増している。慢性的な人員不足を解消するべく、高価なセルフレジシステムを導入した結果、商品ロスが急増している実態があるのだ。
つい先日も、都内の大型スーパーにおいて二十代前半の女性を捕らえた。人気の基礎化粧品やシャンパン、高級菓子など計16点の代金(24,000円相当)を支払わないまま、セルフレジを通過したのである。
事務所で話を聞けば、難聴であるために音が聞こえず、商品が正しくスキャンされていないことに気付かなかったと主張する。ご丁寧なことに、発行から間もない日付が記された診断書まで所持している周到さだ。きちんと精算しているのは牛乳や卵、食パンなど安価なモノばかりで、彼女の話を鵜呑みにすれば高額商品をスキャンするときだけ耳が聞こえなかったということになる。
用いた手口を詳細に語ることは控えておくが、女が示した不自然な挙動や犯行の瞬間を目撃している立場からすれば、まるで納得のいかない話だ。比較的被害も大きく、臨場した担当刑事によれば扱い歴もあるというので、おそらくは逮捕されることになる。そう思っていたが、女の計算し尽くされた言い訳を耳にした警察は立件を見送り、店長に被害申告を断念するよう説得すると、厳重注意処分で済ませて女を解放した。
数か月前には、カゴに入れた自分のバッグに商品を隠しておきながら、白内障で目がみえないから商品を入れるところを間違えたと言い張る老女にも遭遇した。バッグに隠した商品は、金目鯛の切身と黒毛和牛のローストビーフの2点で、合計1,600円ほどの被害であった。目が見えないから入れるところを間違えたというのに、高価な商品を選んでいるところが腑に落ちない。しかしながら、こうした弱者の立件を嫌がる傾向が強い警察は、彼女の時も厳重注意で済ませて帰宅を許している。
ここのところ病気や障害を理由に自身の行為能力を否定し、犯意を否認する被疑者が目立つ。執行猶予中の再犯者や万引き常習者が、裁判所に拒食症や窃盗癖の治療を約束することで、再度の執行猶予つき判決を得られるケースも増えた。バレなければ、自分のモノ。たとえ捕まったとしても、言い訳次第で逃げ切れる。万引きの現場における不条理な現実は、相変わらず健在なのである。
Written by 伊東ゆう
Photo by Amateur.Qin(秦)
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