「ホームセンターで包丁を万引きした」と兵庫県内の交番に自首してきた男(65)の事件処理を行わずに、管轄外の大阪市内まで連れ出して逮捕を免れさせたとして、兵庫県警尼崎南署地域課に所属する男性警部補(48)と部下2人の計3人が犯人隠避容疑で書類送検された。
報道によれば、男は交番に出頭した際に刃渡り10センチを超える包丁を所持していたが、男性警部補は刑務所行きを希望する志願兵と判断。事件化しないと決め、部下に命じて被害店舗とされるホームセンターに証拠品である包丁を返還させたうえで、出頭した男を管轄外まで送らせたという。
男はパトカーの車内で「包丁を万引きしたのは強盗をするためだった」と自供したが、部下の二人は警部補の命令に従うべきと判断して男を解放。その後、解放された大阪市内から和歌山市内までタクシーで移動した男は、無賃乗車の現行犯で和歌山県警に逮捕され、この取り調べの中で兵庫県警の対応を供述したために今回の不正が発覚したのである。
■じつは珍しくない"メンドクサイ連中"の無罪放免
以前にも当サイトで言及しているが、このような事案は珍しくない。金なし、ヤサなし(住所不定)、ガラウケ(身柄引受人)なしという逮捕要件の三拍子が揃ってしまう浮浪者が万引きで捕捉された場合は、特にそうだ。小さな事件の割に手がかかるためか、露骨に事件処理を嫌がる警察官も存在している。
「娑婆にいた方がつらいから」
「臭いから他の留置人が嫌がるんです」
そんな類のことを言い放って、被害届を出させないように誘導するのだ。
「おまえ、この街出禁だから」
横柄な警察官に宣告された浮浪者が、管轄外の川向うに捨てられるケースもみた。被害届が出なければ逮捕する必要はないから、厳重注意とは名ばかりの罵倒を繰り返して解放するのである。なかには私的なストレスを発散しているとしか思えぬケースも散見され、そのような警察官に遭遇した際は、どこか居心地の悪い思いをさせられる。今回の事案でいえば、強盗や殺人など重大事件に発展する可能性もあった。たかが万引きと、警察官自身が思ってしまえば、犯罪の芽を摘むことなどできないだろう。
書類送検された警部補は「事件処理が面倒だった」と供述しているというが、その供述の背景には、コピペの許されない煩雑な書類づくりがあると思われる。担当の処理能力に大きく左右されるが、万引きの処理に限っていえば微罪処分で1~2時間、基本送致で3~6時間、逮捕になれば4~8時間程度の時間がかかるのだ。
事件処理に慣れない警察官が、上司の顔色を気にしながら書類を作成する姿は痛々しく、それに付き合わなければならない我々逮捕者の負担も大きい。簡易な事件に手間をかけることで警察官が疲弊してしまえば、防犯活動はおろそかとなり、街の治安悪化につながりかねない。この警部補に同情するわけではないが、より多くの犯罪を未然に防ぐためにも、さらなる事件処理の簡素化に期待したいところだ。
万引きの現場では、冷え込みが厳しくなってくると、刑務所行きを希望する志願兵が急増する。先月の実績からすれば、好景気とされる今年も、その風潮に変わりはない。逮捕すらしてもらえない環境にある彼らが行き着く先は、どこか。絶望感漂う彼らと接していると、一億総活躍社会など想像すらできないのである。
Written by 伊東ゆう
Photo by Amateur.Qin(秦)
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