平成の音楽シーンを席巻した『小室ミュージック』を大学の授業で教授に聴かせてみた結果|中川淳一郎

先生が激怒し、髪をかきあげた そしてA先輩の見事な切り替えし

 そして、発表の当日、プレゼンテーターのA先輩は、trf、篠原涼子、globe(2曲)の歌の一部を次々と編集済みのMDで流し始めた。最初は神妙な顔をして聴いていたK先生だったが、途中から明らかに不快感を露わにし始めた。K先生は怒りがMAXに達するとそのロン毛を両手で高速でかき上げるのが癖だった。3組目となるglobeの歌は2曲用意していたのだが、1曲目のサビに入ったあたりで、「まだ終わらないのか!」と叫んだ。

 A先輩は「も~少しで終わります! 先生、もう少し我慢してください!」となだめる。それから約2分後、globeの2曲目も終了したところで、こんな展開になった。

K先生:なんだコレは! 全部同じ曲にしか聞こえないじゃないか! 石川さゆりや伍代夏子、坂本冬美の方がずっといいだろ!

A先輩:そこなんですっ! そうなんです、小室がプロデュースする歌は、全部同じに聞こえるのです! これが売れる理由なんです!

K先生:なんで同じ物が売れるんだよ。散々商学部の授業では「差別化戦略」とかやってきただろうに、なんで同質化で売れるんだ?

A先輩:それができるから小室はすごいんです! 小室は曲の導入、サビの入り方など、「こうすれば売れる曲になる」というフォーマットを作り上げたのです。先生も、「仕組み」や「フォーマット」を作れば、誰でも自動車を作れるフォードの工場のオートメーションを高く評価していたじゃないですか。小室の画期的なところは、「誰に歌わせても流行る曲」のフォーマットを作り上げたのです。そこに、trfなら「ダンス」で、篠原涼子の場合は「元アイドル」で、globeの場合は「女性ボーカル+男性ラップ」という追加の要素をつけ、小室軍団の中では差別化します。基本は同じ。でも、「違うように見せる」技に長けたのが小室です。

K先生:なるほど、そういう曲が今は売れているんだな。面白いじゃないか。

 先ほどまで激怒していたK先生だが、A先輩の見事なプレゼンにより、この日の「商品評価論」の講義で我々は高得点を取れたのだった。その後は、ファミレスで酒をガンガン飲み、打ち上げをするのだった。