髪女 「浴室の排水口にびっしりと絡まっていた黒くて長い髪の毛の謎」|川奈まり子の奇譚蒐集二九

「入院中に、宮崎支所から、次の人を住まわせるからアパートを空けてくれと言われたので、母と祖母が引っ越し作業と掃除をしに行くことになりました。宮崎支所のスタッフも手伝ってくれて、1日で作業を終えたのですが……。夜になって帰ってきた母に小言を言われたんですよ。

『彼女を連れ込むのもいいけど掃除機ぐらいかけなさい。部屋中に長い髪の毛がたくさん落ちていたよ』って。

祖母も浴室の髪の毛を掃除したそうで、とても気持ちが悪かった、もう二度とあの部屋には行きたくない、と……」

ここまで話して、正博さんはそこで一呼吸入れたので、そこで話が終わったものだと私は思った。しかし、違った。

「愛媛支所から異動して念願の大分勤務になってから、ある店で飲んでいると、そこのママさん――この人は霊感が強いという噂がある人なんですが、本業があるので滅多に店に顔を出さないんです――が出勤してきて、僕は初めて会ったから『お、噂のママさんだ』と思って注目したんですが、そうしたら、ママさんも僕のことをジーッと見つめてきたんですよ。『え? なんでそんなに俺のこと見つめるの?』って思うじゃないですか。ちょっと不思議でした。すると、いきなりママさんが、『どこから憑いてきたのか知らないけど、あなたの後ろに女がいます。今すぐ取り殺されるわけでもなさそうだけど、このまま憑かせていると、そのうちにまた良くないことが起こるから』と言って、般若心経の本と便箋を出してきて、『写経しなさい』と勧めてきました。