髪女 「浴室の排水口にびっしりと絡まっていた黒くて長い髪の毛の謎」|川奈まり子の奇譚蒐集二九

女のシルエットが、洗面所の方から現れて、ダイニングキッチンを横切って、引き戸に貼りついた。

こちらを、見ている。

恐怖で全身に緊張が走った――と、同時に、腰で痛みが炸裂した。耐えがたい疼痛が背骨を駆けあがり、意識が消し飛んだ。

激痛のあまり失神し、朝まで目が覚めなかった。そのときには立つことも満足に出来なくなっており、実家と会社に電話するのが精一杯。救急車を呼ぶことも考えたが、入院するなら最初に腰椎分離症の診断を受けた実家の近くの病院で、と、思い、実家から車で迎えに来てもらって大分県に帰った。

病院へ行くと緊急手術と長期の入院が必要と言われ、即、手術して入院することになった。入院中は何事も起きなかった。ただ痛かったり、退屈だったりしただけで。

4ヶ月も入院し、退院してから愛媛県に赴任して、そこで起きたのが『オバケの棲む家』で書いた出来事というわけである。

関連記事:オバケの棲む家(後編) 「オバケと真っ向から闘った男の運命は」|川奈まり子の奇譚蒐集十九 | TABLO