髪女 「浴室の排水口にびっしりと絡まっていた黒くて長い髪の毛の謎」|川奈まり子の奇譚蒐集二九
『ここでですか?』と戸惑って訊き返すと、『難しく考えなくてもいいのよ。試しに書いてみなさい』って、ボールペンを差し出してくるんです。しょうがないから言われるままにボールペンを持ったら、いきなり、右腕が動かなくなったんですよ。力を入れても、右腕がプルプル震えるばっかりで、どうしても動かない……と思って焦ってたら、ママさんが、僕の右肩に手を乗せました。
その手が異様に温かった! 何分か手を置いてくれて、『これでもう大丈夫よ』とママさんが言った。すると、右手が動くようになったので、すぐに写経を始めました。その飲み屋のカウンターで、ですよ!」
「その場で女の霊が祓えたんですか?」
「いいえ。毎晩、写経して、お風呂に入るときに粗塩を入れるのを続けてみなさいとママさんにアドバイスされました。それで言われたとおり真面目にやっていたら、3ヶ月後、その店でママさんに再会したときに、『うん! もう大丈夫よ!』 って言ってもらえたんです。もう憑いていないって。
……こういうことがあったので、愛媛で遭ったオバケは、宮崎のアパートからずっと僕に取り憑いていた女の霊に反応していたのかもしれないなぁ、と、川奈さんが書いてくれた『オバケの棲む家』を読んだ後に、思いついたんですよ。
それにまた、愛媛のボロ家では僕は全然掃除をしなかったので、そのせいで髪の毛を見つけられなかったのかもしれないんです。髪の毛が落ちていても気がつかなかったんじゃないかな。薄暗い家でしたからね。電気もちょっとしか来てなくて、採光も悪くて。実は髪の毛だらけだったんだとしたら、厭ですね……」
「じゃあ、愛媛のあの家では、オバケ対幽霊で喧嘩をしていたという可能性も……?」
「そういうことになりますねぇ」
(川奈まり子の奇譚蒐集・連載【二九】)
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