虫の知らせ 「今日は何か変だ…帰った方がよさそうな気がする」|川奈まり子の奇譚蒐集二三

ドアのところまで這っていって、天井の電気のスイッチを入れた。蛍光灯の白い光が室内に満ちる。ベッドは空で、人影はない。しかしさっきは絶対に手で二の腕を掴まれた。指先が細く尖った、あまり大きくはない手だった。

たぶん女の手だ。そう思ったらすっかり目が冴えてしまって、眠るどころではなくなった。ベッドスタンドの明かりを点けたまま、まんじりともせず朝を迎えた。

昨夜の出来事を誰かに打ち明けたいが、病状が悪化したと受け取られては不本意だ。そんなことを考えていたところ、朝食後に父から電話があった。

父は、妹――田代さんにとっては叔母――が橋の上から飛び降り自殺をして、さっき遺体が見つかったと涙声で告げた。

飛び降りたのは深夜だと思われる、とのことだった。

 

 

3人目の体験者は35歳の女性、溝口茜さん。溝口さんの話では、誰も亡くならないが、これも一種の虫の知らせだろうと思われた。