虫の知らせ 「今日は何か変だ…帰った方がよさそうな気がする」|川奈まり子の奇譚蒐集二三

ノリマサは石油タンクを持って1階に下りた。階段を下りて右が玄関だ。階段の左側の杉戸を開けると洗面台や洗濯機がある脱衣場で、脱衣場の奥は曇りガラスの戸を付けた浴室だ。

玄関で石油タンクに石油を入れて、重くなったタンクを提げて階段の方へ廊下を戻りかける――と、杉戸の前に祖母のスリッパがあった。

さっきは気がつかなかったが、閉じた戸の前にきちんと揃えられている。

ということは、風呂に入っているのだろうか? しかし水音が少しもしない。また、祖母はいつも午後7時頃に風呂を済ませる習慣だ。ノリマサは階段の下に石油タンクを置いて、杉戸を開けてみた。
脱衣場の明かりが廊下にこぼれた。

「ばあちゃん?」

呼びかけたが返事はない。浴室の曇りガラスも明るんでいる。

「ばあちゃん、風呂か? 大丈夫かい?」