虫の知らせ 「今日は何か変だ…帰った方がよさそうな気がする」|川奈まり子の奇譚蒐集二三

曇りガラスの戸を開けると、ひんやりとした空気に顔を覆われた。ガス給湯器のランプは消えており、浴室は冷え切っていた。

丸い背を見せて、浴槽の中に祖母がうつぶせに浮いている。
慌てて引き揚げようとしたが、裸の祖母の両脇に手を入れた瞬間、冷めきって水と化した湯の微温になぜだか戦慄して膝が笑い、その拍子に持ち上げかけた祖母の体を浴槽の中に取り落としてしまった。

……コン!

軽快な音が鼓膜を打った。
ヤカンを叩いたような音だったが、祖母の体が水の上を筏(いかだ)のように滑り、浴槽の縁に頭が当たった音だ。
と、わかった途端、ノリマサは祖母が死んだことを本当に理解した。

――夫は、「ばあちゃんが死んだことを俺に知らせたんだ」と今でも信じている。

 

 

2人目はTwitterで応募してくださった田代秋彦さんの話。