緊急事態の今こそ、わかりやすい「ナラティブ」には気をつけろ! 放射線治療とコロナ死の因果関係は見つかっていない
事務所からの発表によってもたらされた、岡江さんの訃報には「乳がん手術をうけ、1月から2月半ばまで放射線治療をうけていたため、免疫力が低下したことで重症化した可能性がある」との一文。これをうけて世間は、放射線治療による免疫力の低下を死亡の大きな原因として嚥下しました。
しかし、日本乳がん学会の理事長はすぐさま「放射線治療による免疫低下とは考えにくい」と真っ向から否定。他の医師からも、放射線治療と関連している可能性は低いという声が続々と発信されました。
それにもかかわらず、現在でも関連を信じる人が多いという状況。なぜ、放射線治療とコロナ重症化の関連性を信じる人が減らないのでしょうか。
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これは「人にはナラティブ(物語性)が必要」だということです。特に今回のような、突然で理不尽にも思われる悲しい事態を前にすると、私たちはわかりやすい原因を見つけ、心を着地させずにはいられないのです。
訃報を受け取った側の私たちには「事務所発表」というバイアスもかかっていますが、それが否定されても関連性を信じる言説が止まらないこと。そして、事務所の方々が拙速に、放射線治療との関連性について言及したこと。これらは、死という理不尽な悲しみに整理をつけるための、自然な心の動きなのです。
心が、理由のつかない整理されていない状態に置かれることは不安で怖く、早く整理をしたくなるのが人の性(さが)。何十年にもわたって「血液型と性格は無関係」と言われていても、いまだに血液型と性格を結びつけるような会話がやり取りされることにも似ています。私たちには「見えやすいナラティブ」が必要なのです。このことについては、宗教学者で僧侶の釈徹宗さんも繰り返し言及されています。