改めて噛みしめる樹木希林さんの言葉 頑なまでに本を出したくなかった理由とは|吉田豪

kirin.jpg一切なりゆき 樹木希林のことば』より

大川隆法の『公開霊言 女優・樹木希林 ―ぶれない生き方と生涯現役の秘訣―』(幸福の科学出版)はさすがにアレすぎるので無視するとして、『一切なりゆき 樹木希林のことば』(文春新書)に『樹木希林 120の遺言 ~死ぬときぐらい好きにさせてよ〜』(宝島社)と、最近になって雑誌などでの発言をまとめた樹木希林名義の本が複数リリースされている。

参考資料:樹木希林のインタビュー内容が凄いことになっている件|ほぼ週刊吉田豪

タレント本好き&樹木希林好きとしてはもちろん嬉しいことだしどちらも購入したけれど、どうしても引っ掛かるのはボクが2008年に『本人』(太田出版)という雑誌でやった樹木希林インタビューでの発言だ。

――自分のことを世間に伝えていきたい、みたいな欲もないですよね。
樹木 まったくそれはないですね。できればおしまいっていうか、このまましまっちゃいたいって感じです。
――このキャリアで本を出していないのも、きっとそういうことなんだろうと思って。
樹木 これは自慢でもなんでもないんだけど、たぶん日本の名だたる出版社から出版の依頼はきましたね。
――それでも出したくはないんですか?
樹木 出せないの。何を出したらお客が面白いのかってことが考えられないんで。
――普通に人生を語るだけでも、かなり面白くなると思いますけどね。
樹木 断罪するほうとしてはね。
――断罪って(笑)。
樹木 そうじゃないの? だから、読み切りで捨てられる本(=雑誌)だったらいいけど、その片棒を担ぐ余裕はないから。資源のムダっていう感じがするし、優れたものが書けないからね。
――いや、そんなことないですよ!
樹木 どうか私を一般的な感覚で対応しないで。

こういうことを公言していて、頑なに自分の本を出そうとしなかった人なのに、亡くなった途端、読み切りで捨てられる前提で語った発言をまとめて、自分名義で出版されるのって果たしてどうなのか。

「死ぬときぐらい好きにさせてよ」とサブタイトルが付けられているけれど、出版する側の「死んだ後ぐらい好きにさせてよ」感が漂ってきて、なんとも寂しい思いがしちゃったわけです。権利の問題とかあるのかもしれないけど、せめて著者名は外してあげて欲しいよなー。(文◎吉田豪 連載『ボクがこれをRTした理由』)

あわせて読む:樹木希林さんがある女優をセクハラから救っていた パワハラ・セクハラが酷かった昭和映画界のイイ話