テレビからネットニュースへの宣戦布告? ドラマ『ゴシップ#彼女が知りたい本当の〇〇』 コタツ記事がなくならない構造的要因
フジテレビ系列『ゴシップ#彼女が知りたい本当の〇〇』(以下『ゴシップ』と略)見て、いくつか気づいた点があった(木曜夜10時から)。
内容はニュースサイト編集部が舞台となり、主人公の経理出身のクールな女子・瀬古凛々子(黒木華)がニュースサイトでは常識とされているものを覆していく。出演は溝端淳平、野村周平、生瀬勝久、石井杏奈、野間口徹、安藤政信、宇垣美里、大鶴義丹、秋元才加ほか。構図は昔からドラマや映画ではよく見られるもの、ではある。
1・舞台は大会社。ダメ社員がいてダメ部署がある
2・そこに新人(黒木華)が異動
3・ダメ編集者、ダメ編集部が新人によって活性化していく
この1、2、3の構成を Aとしよう。例えば『ショムニ』(江角マキコ主演・フジテレビ系)を見るまでもなく、映画『舟を編む』や映画『シン・ゴジラ』にもそういった要素が入っている。この「構成A」は定番と言ってよい。定番が悪い訳ではなく、例えば漫画でも
1・成長する主人公
2・永遠のライバル
3・越えられない存在(先輩、師匠、先生)
4・主人公の淡い恋心
の4つで構成されている少年漫画はヒット作に多く見られる。「構成B」としておくが、『ドラゴンボールZ』『スラムダンク』『はじめの一歩』などの大作はこの「構成B」に当てはまる。『あしたのジョー』から数えるときりがないのでこのあたりで止めておく。
音楽に例えるとコード進行のようなものだ。音楽でのヒット作には「カノンコード」(ヨハン・バッへルベル作曲『カノン』という作品のコードの事)というコード進行でつくられたものがヒットするという図式がある。それと似ている。
ドラマ『ゴシップ』の世界にすっと入っていけるのは脚本が「構成A」である点も大きい。あとは、テーマと俳優陣の演技、脚本に作品の良し悪しがかかってくるのだが、一話終了時点でのテーマは「ニュースサイトのコタツ記事批判」になっている。恐らく回を追って「構成B」の黒木華の成長物語と人間ドラマの要素を入れてくるだろうが、このドラマの狙いとしては「取材とは何か」「ニュースの在り方」「記者の矜持」「編集者の存在理由」になってくるのではないか。
コタツ記事とは文字通り、外に出て取材するでもなく、コタツに入っても書ける安易な記事の事を言う。すなわち、テレビ番組を見て、出演者のコメントを抜き出し「〇〇が告発」というようなタイトルを付けて、読者を釣る安易な記事の事。読むと「何だ。テレビでの発言の文字起こしか」というガッカリ記事である。
コタツ記事は特に、記事の構成、編集技術、取材能力など鍛錬や経験などを必要としなくなて良いので、ブログなどを書いている人ならば素人でも書ける。タイトルはあたかも芸能人に取材してコメントしたようになっているが、読むと「番組で発言した内容」がそれっぽく書かれている。
この安易な手法が一番多く使われているのが、スポーツ紙である。なので僕個人の検索結果だけで申し訳ないのだが、「ゴシップ#彼女が知りたい〇〇」で検索してみると大手スポーツ紙、大手写真誌はだいたい黙殺。話題になっていないからという声も、勿論あるだろうが。
このコタツ記事に対して経理から異動してきた、編集未経験の主人公黒木華は不思議に思う。
そしてある日、ゲームアプリの会社がツイッター上で「パワハラ」と告発されていた。ツイッターをまとめ上げ、記事で会社名を出して「パワハラ」と書いてアップしてしまう(何という甘さ。というツッコミは置いておく)。「うちみたいな弱小サイトの記事に対して大手ゲームアプリ会社が怒る訳がない」と考えで掲載した結果、ワイドショーで取り上げられ炎上する。そして相手側弁護士から内容証明書の抗議が届き、会社では「この編集部を潰してしまおう」という声が役員連中から出て、編集部員は真っ青に。しかし黒木華だけ冷静に対処する。
「果たしてこのツイートは誰が書いたのか」
という根本的な問題を抱く。そこから彼女のツイートの書き込み主を探し当てるべく「取材」が始まる・
※
その前に、舞台となっているこの出版社とニュースサイト編集部はどこか?と推測するのは、編集者としての本能だから致し方あるまい。もちろん脚本では特定されないよう、いくつかの出版社を混ぜて描写している。
まずこの出版社が日本を代表する超大手出版社であるという事が役員会議から見てとれる。出版社の役員会議室など入った事はないのだが、ただそこから見える景色は高層ビルから見える「大都会東京」だ。しかも自社ビルである(!)。「白亜の御殿」や「白亜の城」などと建築当初、羨みとやっかみで各誌編集者、記者から言われた音羽系の出版社を想像させる。
また、ニュースサイト編集部はその本社ビルではなく少し汚れた、しかし歴史ある別館だ。従って、新宿区にある日本を代表する老舗の出版社を想起させる。
水道橋界隈にある神田川っぽいものも写されている。神田川周辺には中小の出版社がたくさんある。これはさすがにどこか見当がつかない(僕の古巣、ミリオン出版<現・大洋図書>の側にも神田川が流れているし)。
※
いずれにしろ、「超大手出版社のニュースサイト編集部」であるのだがここでちょっと気になるのが、超大手出版社のニュースサイトの編集部員が5人しかおらず(一話の編集長生瀬勝久は早期退職。黒木華が新編集長で新人加入)、しかも登場人物によれば「月間50万PV」なのである。黒木華は異動早々、「5000万PVにする」と公言して他編集部員から呆れられるのだが、超大手出版社のニュースサイトが月間50万PVは考えにくい。
最近はコタツ記事も変化していて、「テレビを見て」ではなく、「YouTubeでは」「Instagramによると」と書くのが主流になっている。
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