テレビからネットニュースへの宣戦布告? ドラマ『ゴシップ#彼女が知りたい本当の〇〇』 コタツ記事がなくならない構造的要因

YouTubeやInstagramの記事をアップする事によって、視聴回数が上がる可能性もあるので、内容をコピペではなく要約して記事化すれば、抗議が来る事は考えにくい。そして何より国内ポータルサイトでは半ば独占企業化している「Yahoo!ニュース」がコタツ記事を配信しているのが最も大きいだろう。
因みに1月12日現在の「Yahoo!」アクセスランキングを見てみよう。2位から。

2位 人気カップルYouTuber「彼氏と離れて号泣」動画に批判で謝罪 誹謗中傷には反対「やめてほしい」(配信元J-CASTニュース)
YouTubeとtiktokの内容の要約

3位 「すっかりお母さん」 第1子出産のイモトアヤコ、子どもをあやす“母の背中”が頼もしい(配信元ねとらぼ)
イモトアヤコのInstagramの要約

4位 神田沙也加さんの愛犬、村田充の愛犬と仲良し 小さなベッドでぴったり(配信元デイリースポーツ)
村田充のInstagramの要約

5位 “26歳年の差婚”の菊池瑠々、第4子妊娠を発表「もう、とにかくうれしいです!」 年上の夫も満面の笑み(配信元ねとらぼ)
菊池瑠々のブログとYouTubeの要約

6位 安藤美姫 8歳愛娘と2ショット公開にネット驚き「双子のよう」「美姫さんそっくり黒髪美人」(配信元スポニチアネックス)
安藤美姫のInstagramの要約

きりがないので以下略にするが、念の為スクショを撮っておいた。30位までほぼSNSの要約である。
が、本稿はこの手の記事の批判しているのではない。なぜなら、コタツ記事は恐らくプロの書き手が喜んでこういった記事を書いている訳ではないと信じるからだ。

では、なぜこのようにコタツ記事が蔓延しているかの理由の一つに「Yahoo!に配信されるから書いている」のがある。
Yahoo!はガリバーである。芸能人、タレントなどが番組で「Yahoo!のトップに載った」とギャグ混じりに語る事がある。これなども少なからず、影響していると思う。一言で言えば権威になっている。

25年以上、出版業界にいた身としては、似たような現象があった事を思い出す。当時も今も、取次は業界から「トー日販」あるいは「トーニッパン」と称されるように「トーハン」「日販」(日本出版販売)の巨人の二社が独占状態だ。その他にも勿論、取次店はある。太洋社、大阪屋、栗田出版販売等々で現在は合併などで異なる社名に変更している会社もある。出版不況により無くなった取次も多々ある。

とは言え、依然として「トー日販」の寡占は変わらない。そして、往々にしてこの二大取次二社が中小出版社にマウントしてくる、という話は伝わってくるし、実は編集者である僕もそのマウントを体験した事がある。というものの、取次も出版業界の「仲間」である。本を売りたい気持ちは変わらない。情報交換の場を設けてくれる事もある。本への愛着に版元も取次もない。「売りたい」という目的は一緒だ。なので、マウントされつつ、自分の雑誌の説明を熱心にしているうちに窓口の係長(まだ覚えている)が、最初は冷淡だったのが、段々と自分の話に引き込まれていってくれたのも覚えている。出版業界人同士なのだな、と嬉しさを感じた。因みに、通常は取次の営業に編集者はほぼ行かないので貴重な体験が出来たと感謝している。

因みに、100冊以上の雑誌の編集長を務めた体験から言うと、本や雑誌の成り立ちには、著者やライターと編集者は当然だが、直接かかわったデザイナー・レイアウター、カメラマン、イラストレーターは勿論、社内では営業部、広告部と取材費を捻出する経理や総務部。そして取次、印刷会社、製紙会社などの全てに感謝すべきだ。そして何より、書店の努力。書店回りをしないとこの感謝の意は得られないと思う。

が、ニュースサイトは異なる。関わった人たちの顔が一部しか見えてこない(もちろん、きちんと顔を突き合わせて話し合うような非常に熱心なポータルサイトもある)。またガリバーであるYahoo!はニュースサイトが主として成り立っているポータルサイトではない。買い物ができる。物を売る事も出来る。ニュースを殊更、取り上げなくても成立する。

長らくコンビニストアを販売場の主としていた『実話ナックルズ』(大洋図書)の編集長を務めていた身としては、情況が似ていると感じるが、話がズレるのでここでは止めておく。

元から配信契約をしている大手・老舗の記事はコタツ記事であろうが、上記のランキングを見てお分かりのように、ガンガン配信してくれる。これによってPVがどれだけ助けられているか。マネタイズの面でどれだけ楽になっているか。業界人の中にはコタツ記事を苦々しく思っている人も多々いるし、前述したように書き手が喜んで執筆しているはずはない。けれど、配信してくれる限り延々とコタツ記事は書かれるだろう。ずっと、YouTubeとInstagramとTwitterをチェックする日が続く。繰り返すが書く方も嫌になるだろう。

黒木華は、編集部で5000万PVを目指すと言う。その方針は「ゴシップ記事」を掲載する事だ(この当たりは「?」である。とっくにそんな事はやっているはずでは……)。ただ第一回目はSNSのつまみ食いの記事で抗議をされたため、ツイートをした人間を資料と足で突き止め、自分たちの記事を裏取りするのだが、こんな取材はライター冥利、編集者冥利に尽きるだろう。駆け出しの編集者の時(今でも駆け出しだが)、ライター永江朗さんが僕に言った事がある。

「Aという記事があるとするよね。それが怪しかったら、その記事の通りに検証していくという方法も良いと思うよ」と。

これは大変、参考になった。いくつかの雑誌で、真偽がアヤシイ記事をトレスさせて頂き「この記事は嘘だろう」という結論に至った事もあった。記事を掲載後、その雑誌の副編集長に酒の場で殴りかかられた。大変弱弱しかったので却って気の毒になってしまったのだが、今となっては笑い話である。

『ゴシップ』でも黒木華はこの手法を行使していった。違うのは自社媒体の記事のトレスだった。因みに、同様の手法は映画『ニュースの天才』も使われており、取材の原点と言っていいかも知れない。まだ始まったばかりの『ゴシップ』だが、どこまで業界の内情に斬り込めるのか、興味深いところではある。(文@久田将義)

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