大谷翔平の活躍に見る「なお報道」とは チームの勝敗は二の次 日本のスポーツ報道の在り方を考える│中川淳一郎
<MLB・ヤンキースの松井秀喜は「6番・レフト」で先発出場。0-2で迎えた4回裏1死2、3塁、ツ軍の左腕・スミスから左翼上段へ大アーチを放ち、一気にヤ軍は逆転。その後も松井はツ軍の主砲・デービスのホームラン級の大飛球を大キャッチ! 攻守にわたる松井の大活躍だった。なお、試合はその後もヤ軍がジーターのタイムリーなどで追加点をあげ、6-2で勝利した。松井の3ランがヤ軍を勢いづけた〉
これは、「ヤ軍」が勝とうが負けようがどちらでもよく、日本人選手の個人成績がどうだったか、そして「勝利に貢献」ないしは「負けたもののチームを鼓舞した」といった表現ができればいいのである。昨シーズンのエンゼルスにしても、正直大谷がプレーオフやワールドシリーズに進むかどうかは二の次で、MVP・本塁打王・ベーブ・ルーース以来103年ぶりの2桁勝利&2桁本塁打を達成するか、という点に日本のメディアは注目していた。私はこれを「なお報道」と呼んでいる。本来最も大事なはずのチームの勝敗は最後に
「なお、試合はヤ軍が2-7で敗北した」
と締めるからだ。
この報道スタイルは後に海外サッカーでも使われるようになる。とはいっても先駆者はそうはならなかった。野茂の1年前の1994年、三浦知良がセリエA・ジェノアへレンタル移籍したが、開幕戦でACミランのDF・フランコ・バレージから骨折させられたシーンばかりが注目され、結局活躍はできず翌年ヴェルディ川崎に復帰した。海外サッカーにおける日本人選手の「なお報道」は1998年、セリエA・ペルージャに移籍した中田英寿を待つこととなる。開幕戦でジダン率いるユヴェントスから2点をあげる大活躍をしたのだ。なお、試合は2-3でペルージャの惜敗だった。
一時期は松井秀喜、イチロー、長谷川滋利、佐々木主浩、城島健司らが大活躍し、すっかりスポーツニュースはMLBに席巻された感があったが、以後ダルビッシュ有と前田健太は別格としてもマイナー契約で終える選手や、まったく出場機会が与えられない選手も次々と登場し、2010年代以降は「なお報道」の勢いは弱くなった。そんな中、令和に入り、大谷翔平が「なお報道」の勢いを加速させる存在になっている。
しかし、アメリカ人は「なんで日本人って勝敗に興味ねぇんだ?」と不思議に思っているのではないだろうか。何しろアメリカ人からすれば、サッカーを除き、海外リーグは格下のため、そんなリーグでプレーする自国人に興味が湧くワケがないのだから。多分、サッカーのタイリーグや、台湾プロ野球に所属する選手をいちいち追わない感覚だろう。(文@中川淳一郎 連載「俺の平成史」)