Netflix「新聞記者」と小山田圭吾さん騒動との共通点 取材者のモラルはどこへ行った

「新聞記者」のヒットで一躍寵児となった望月記者と河村プロデューサー。週刊文春の記事を読む限り、「新聞記者」のメインテーマである「赤木さん事件」(とここではあえて呼ぶ)の取材協力者の妻・雅子さんの協力がなければ成り立たなかったドラマだ。
取材者と被取材者の関係性について抑えておくとあくまで望月記者は雅子さんに「取材させて頂いている」のである。新聞記者が偉いのではない。当然、テレビ記者が偉いのでもない。「無理を言って家族の写真や遺書の貸出をして頂いている」のである。その人の心を傷つけてどうする。

ここである騒動を思い出した。

ミュージシャン小山田圭吾さん騒動である。

小山田圭吾さん騒動とは過去のイジメ経験を「ロッキンオンジャパン」及び「QuickJAPAN」(以下・QJ)に告白。掲載当時から炎上し、結局、約20年後の東京オリンピック・パラリンピックの開会式の作曲担当者に小山田さんらを起用する事がニュースになり、また炎上。抗議などで小山田さんは謝罪し立場を辞す事になる。

イジメは絶対になくすべきだ。人類が無くさなくてはならないものに、弱者イジメ、差別、戦争があると思っているが、イジメは絶対にいけない。これは大前提だ。

その上で、ここでは記事全文を読んだ「QJ」に限って指摘するが、当時人気絶頂だった小山田圭吾さんに「QJ」はお願いする形で「イジメ体験とイジメられた人の対談」を企画した。対談は実現しなかったので、打合せ段階での小山田さんの話を記事として掲載。
結果、炎上するのだが「週刊文春」の小山田圭吾さんインタビューを始め、小山田さんが当時「QJ」に語った壮絶なイジメはそこまではなかった、という主旨の告白をしている。にもかかわらず、20年にわたって炎上してきた。

問題は、「小山田さんにお願いして」誌面に登場して頂いた「QJ」編集部である。編集人・ページ担当者(当時はライター)・発行人。この三者には小山田さんを守らなければならなかった。なぜなら、著作権(小山田さん)、編集権、発行権の三者で記事及び出版物は成り立っているからだ。それゆえ三者とも責任を取らなければならないはずだが、結局小山田さんだけが罪と罰を受ける形になった(機会があればこの「事件」は備忘録として記事化しておきたい)。

振り返って「新聞記者」である。構図が似ている。完全なトレスは出来ないが、少なくとも「お願いして」雅子さんに協力して頂ている。まずは雅子さんの意志を尊重すべき。小山田圭吾さんの意志を尊重すべきだったように。取材者は被取材者に対して、原則、丁寧にそしてお互いにある程度であっても、信頼関係を築くべき。もちろん不正を糺すといった目的の場合は別だ。しかしこんな記述がある。「望月記者が「報道のため」というから貸し出した写真や画像データ、遺書、音声データなどは一部しか返却されていない」(週刊文春より。ママ)。これが本当なら信頼関係など築けるはずもない。

雅子さんにとって、これから裁判の資料にもなるし思い出の品でもある。その重みは他人には分からないだろう。それを返却しないとは……。取材とは何だろう。取材者の矜持とは何だろう。

権力の不正を糺す時。権力と闘う時。メディア側もなりふり構わず対立していっても良いだろう。しかし、そこに人の死や遺族の思いが絡む場合、記者の前に人としての行動を考えるべきではないか。そう批判するのにはこういった記述が週刊文春にあるからだ。前記の資料、遺書などの返却を雅子さんが望月記者に求めている。すると、

「返してほしくて何度も電話したが応答せず、コールバックもない」(週刊文春より)。

取材者の矜持とは何か。頂いた資料で権力に迫ろうという目的だとしても、取材協力者あっての事だ。

チートでも何でも良い。一時、そういった風潮が吹いたのを感じた事があった。2011年東日本大震災の頃だった。一部文化人が福島原発事故での放射線の恐怖を過剰に煽っていた。しかし煽っていた人たちはもう、表舞台には出ていない。真っ当な取材をしていた人たちは現在も、取材活動を続けている。

僕も福島第一原発の取材をした。記事化されているので名前を出しても良いと思うが、朝日新聞奥山俊宏編集委員と一緒に取材をした作業員のインタビューを掲載した。当たり前だが名前を出さない、職場も出さない、など条件を守りつつ協力者の作業員の立場を2人で尊重し、その作業員の了解のもと、朝日新聞(2021年3月12日夕刊)に掲載。掲載されてから何かのミスがあって、作業員の方からクレームの電話が来るのでは、と緊張したものである。幸いにもなかったが、それほど取材協力者には気を遣うし立場を守らなければいけない。それが取材者としての矜持だと思う。果たして「新聞記者」にはそれがあったのか。

チートはもういらない。真っ当な仕事をする人が残る。(文@久田将義)

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