日本と朝鮮半島を海底トンネルで結ぶ!? 統一教会が作ろうとした「日韓トンネル」 

つまり600メートル掘り進むのに、120メートル分の深度があるということだ。スラスラと数字が出てくるということは、「社長」は技術者なのだろう。続けて言う。

「実際のトンネルはここから10キロ離れたところからになる。鉄道には必要な傾斜度というのがあるから。自動車道路にすると換気の問題があるから無理。鉄道専用。クルマはシャトル列車に乗せて運ぶことになるだろう」

削岩機らしきものも見える。

では実際のトンネルを掘り始めたらどのぐらいで完成する見通しなのだろうか。

「10年といわれているが、実際に着工したら7年でできる。月間500メートルとして年間6キロ。最高で月間1200メートル進む。釜山から対馬の60キロは5年で掘れる。今ならユーロ(トンネル)よりも早く掘り進める技術があるから。予算は10兆円。ただし今の国際関係や情勢もある。あんたらも知っているだろうけど、公共事業費は年々上がっている。だけど、トンネルは技術向上のため、90年代初めに比べると費用は70%ぐらいだ」

「社長」は具体的な数字をあげて説明する。相当に自信を持っているようだ。
そもそも10兆円がこの規模の工事として高いのか安いのかもわからない。そんな大金をかけてまで作る意義があるのかもわからない。だけど7年で10兆円という具体的な数字を提示されると、そういうものかとわからないながらも納得させてしまう説得力が「社長」にはある。

技術的に問題をクリアできたとしても、政治的な問題についてはそううまくいかないのではないか。特に竹島問題については日韓のあいだの認識は埋めがたいものがある。また北朝鮮と韓国との関係をどのように考えているのかも気になる。トンネルによって日韓がつながっても、北朝鮮が態度を硬化させたままであれば、トンネルの価値はかなりひくいものになるからだ。

何人の人員を割いていたのだろうか。

「竹島の帰属問題については棚上げすればいい。祖国統一とか韓国人で唱えてる人が多いけど、実現すると思っている人はいないでしょ。あと、イミグレーション(出入国)の問題があるな。日本はいままで空と海しか(外国との経路が)なかったから」
当初、うさんくさい「穴」だと思っていたのだが、存外、現実性がある話しに思えてきたから不思議だ。こちらが驚いて興味を示すたびに「社長」の態度も柔和になり、ときおり笑顔混じりに答えるようになる。

「地層の問題とかも調査してくれといわれている。まっすぐ進むルート上の地盤が悪い場合、どの迂回ルートがいいかも調べている。ユーロトンネルに視察にも行っている。夢物語みたいに思うだろうが、実際にできることなんだ」

丁重に謝辞をあらわし、その場を後にした。この人自身はトンネルに相当な思いがあるのだ。当初、「日韓トンネル」というのがあまりに気宇壮大で(そのわりには知られていなくて)珍妙に感じていたのだが、思っていたよりも至極まっとうなような気がした。ただ、本当に実現に向かっていくのだろうか。