「ブレないインタビュアー」吉田豪著『帰ってきた 聞き出す力』(集英社)

インタビュー内容を掲載するとネタバレになるので本書を手に取って頂きたいのですが、明らかに野球に興味がない吉田君と大谷選手のインタビューはミスマッチでは? と思いきや、大谷選手という天才アスリートの生身の部分の一端を読者に魅せる事に成功。因みに、ここの箇所、大谷選手をある野球漫画の登場人物に重ね合わせて、読者(僕ですが)の笑いを取っています。例えが秀逸。これも以前からの吉田君の原稿の特徴です。このあたりの表現力はさすが、30年近く出版業界・ネット業界の一線を走り続けた物書きのテクニックと言えるでしょう。

本書は「人間臭さ」に注目して、それを引き出していくテクニックを解説しています。松方秀樹さんにしろ、金田正一さんにしろ「面白い人は普通に喋っていても面白い」。人として面白い・魅力的だ。そこに着目して引き出す彼の姿勢は、僕は「吉田君はヒューマニズムの人」だなと、感じる次第です。

そこには優しさが存在するからです。

当然、ダメなものはダメという事はするのですが、基本、彼の優秀さは「優しさ」を大切にする点だと常々思っていました。だからこそ「聞き出せる」のです。というように、コミュニケ―ション力を身につけたい人は本書にヒントがたくさん転がっています。

因みに青木理さんに「ブレないジャーナリスト」と名称づけたのは僕だったと記憶していますが、吉田君もブレませんね。多少は丸くなったのかも知れませんが、尖っている部分は尖っています。本書でも垣間見られます。ブレていません。

が、何人かのライターさんは、年月を経ると変わっていく人もいます。例としてネット右翼化。陰謀論者化。この辺りの地雷地帯を敏感に察知し、避けながら渡り歩いていく吉田君のブレなさを見ていると、彼の社会への姿勢は混とんとしている令和の時代、一つの羅針盤になり得るのかなとも感じる次第です。(文@久田将義)