11月23日。蒲田では毎年この日、とある「奇祭」が催されます。すでに33回目を数え住民にとっては、冬の到来を告げる行事となりました。しかし、その存在はあまり知られていません。今回はそんな奇祭をご紹介いたしましょう。
2018年11月23日12:30。蒲田駅東口は祝日らしい賑わいを見せながらも「何かが起こる」といった風情はまだ感じられません。私は、奇祭の出発地点である駅から300mほど南側の地点へ向かいました。すると、大通りから一本入ったその場所に、神道風の装束をお召しになった方々が数十人、準備万端のご様子です。
そして13:00、オープンカーの先導のもと奇祭がいよいよスタート。
「神が求める世界平和」というワード、ほどよく深みのないステキなワードにグッときます。とはいえここまでは、神道風の装束の方々の列と神輿が列をなしている程度で、あまり奇祭じみた様子は見られません。通行人も「どこかの神社のお祭りなんだろう」くらいにしか思っていないようで、まだ油断しています。しかし、本領発揮はここから。
出てきました! 神々の登場です! 交差点を左折する月読命(ツキヨミノミコト)や、信号待ちをする伊邪那岐(イザナギ)と伊邪那美(イザナミ)など、DIY感バリバリの台車に乗って、神々が蒲田の街に出て行きます。特にBGMもないうえに台車が人力で動いているためモーター音もないので、ご覧の通りの無表情の神々がほぼ無音の中を進んでいく様はシュールそのもの。
この役の方はかなりヘビーです。なにせこの行列、蒲田駅からおよそ2.8kmを2時間以上かけて続きます。無音の神々が運ばれていくあたりから、油断していた街の人々も異様なことが行われていることに、気づきはじめます。
しかし、これはまだまだプロローグに過ぎないのです!無音&無表情で運ばれていく神々の後ろから、10台以上に及ぶ巨大な山車が現れるのです! それぞれが古事記や日本書紀に描かれる神話のシーンを模してつくられており、こちらは無音ではなく、音響や特効まで搭載されています!(ただし移動の動力は人力)
あまりにも数が多いので、私が気になった山車をいくつかのみご紹介いたします。
まずは「天孫降臨」の山車。荘厳なBGMとともに登場するこちらは、雲をあしらったデザインで中にカラフルなLEDが仕込まれており煌びやかです。
行列後半にやってくる難所、大通りを渡るシーンでは一度で渡りきれず、道路中央で信号待ちをさせられる神々が見られます。
つづいては、天照大神が岩戸に隠れて暗闇になった世界を、天手力男(アメノタヂカラオ)が力ずくで開いて、世界に光を取り戻した「天の岩戸開き」の神話。力ずくで開く様を表現するために、この岩にしがみついた男性が、約1分おきに「あー!!!」と叫びます。これが、2時間以上も続くのです。他の山車を見ているときにも遠くから小さく聞こえる「あー!!!」に、心が持っていかれてしまいます。
こちらは「草薙の剣」という神話。理由は全く不明ですが、爆音でスターウォーズのテーマ曲を流しながら通過していくので、日本神話の空気感などはまるつぶれになっています。
昔話にもなっている「因幡の白うさぎ」の神話です。ここまであんなに凝っていたのに、突然の「ドンキ・ホーテで買ってきた感」があふれています。
スモークを焚いて目立っているのは「やまたのおろち退治」の神話です。やまたのおろちの首をひとつ人力で動かし、そこに須佐之男命が剣を振り下ろすという考えられた演出。ですがやはり2時間を超える行列なので、後半は剣の振り下ろしもかなりおざなりになっていました。
ほかにも「全員着ぐるみなのに、なぜかキジだけ人形の桃太郎御一行」や「なぜか子供におじいさん役をやらせているかぐや姫」など、昔話として私たちにもお馴染みの山車が次々に通っていきます。そして、神話の空気感を全く持ち合わせていない、マーチングバンドとバトントワリングの方々が殿(しんがり)をつとめます。
この神々のエレクトリカルパレードを主催しているのは、神命大神宮という新興宗教です。信者数3万人の小さな宗教です。蒲田駅を出発した神々は、行列の末に本宮にたどり着きます。
マンション風の建物に、神社のような屋根が埋め込まれた独特な外観と、巨大な鳥居が目を引きます。本宮内は信者の方々にとっての聖域なので、撮影は控えましたが二階にある神殿は清潔に保たれ、神道系にしては珍しく正座をして祈りを捧げるスタイルとなっていました。
行列が終われば、蒲田にも冬がやってきます。そんな蒲田の奇祭、神命大神宮の神代行列をご紹介いたしました。(Mr.tsubaking連載 『どうした!?ウォーカー』 第23回)
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