都内のある百貨店で、棚卸しのたびに商品の数が大幅に不足していることが問題になっていました。どんな店でも万引きの被害はありますし他にも様々な理由で数字が合わないことは普通のことですが、この店では売り場に出さずにバックヤードに置いたままになっているはずの商品の数も合いませんでした。
内部に不正を行っている者がいる、そう判断しバックヤードに監視カメラを設置したところ、そこには派遣社員として6年前から働いていた金田智子(仮名、裁判当時42歳)が商品を盗んでいる姿が映っていました。
彼女が窃盗罪で起訴された公訴事実は骨盤ベルト2つ、販売価格合計14040円を盗んだという一件だけでしたが、被害店側は、
「以前から商品がなくなっていた。被害は莫大だ」
と供述しています。彼女自身も常習的にバックヤードから商品を盗んでいたことを認めました。彼女は転売目的で犯行を繰り返していました。
「盗んだ物は全てヤフーオークションで売っていました。骨盤ベルトは2つで7480円で売れました」
彼女の出品履歴には盗品ばかりが並んでいました。完全な新品を安価で出品してくれる彼女はおそらくヤフオク内ではとても人気があったのではないかと思います。
彼女は職場では唯一の派遣社員でした。都合のいい時だけ正社員扱いされること、売り上げを正社員並みに求められること、職場内で孤立していること等のストレスを犯行動機として挙げていました。
彼女の抱えていたストレスは理解できますが、だからといって窃盗に走った彼女を擁護することは出来ません。棚卸しで合わなかった金額は半期だけで200万円近くにのぼっています。
「メルカリで売るために盗んでいました」
これが福浦めぐみ(仮名、裁判当時35歳)が都内のドラッグストアで福袋一点、販売価格9720円を万引きした理由でした。彼女の家からはいくつもの福袋が発見されました。全て売るために万引きした物です。彼女は風俗店でのバイトなどの仕事をしていましたが
「生活の焦りや今後の不安を思って、むしゃくしゃしてついやってしまいました」
と犯行動機を供述していました。逮捕時点で貯金は数百万円ありましたが、あまり熱心にバイトをしていなかったようで貯金を少しずつ崩しながら生活していたことに強い不安があったようです。
彼女には窃盗の前科があり、今回の事件は執行猶予中の犯行でした。前回裁判は、メルカリで転売するためにドラッグストアで口紅を万引きした、というものでした。
中学卒業後、鉄筋工として働いていた青野誠(仮名、裁判当時33歳)は、以前に自動車解体の仕事で知り合ったタイ人の男に仕事の誘いを受けました。仕事の内容は『部品を輸出するために車を盗んで解体する』というものでした。
「ホンダを盗ってこい」
というタイ人男性の指示を受け、彼は共犯の高橋(仮名)とともに駐車場に停めてあった自動車を盗んで解体しました。この時の犯行が発覚し、彼は逮捕、起訴されました。彼には他にも多数の余罪があり、
「追起訴がどれだけあるかわからない」
と検察官が言っていました。この事件に関しては初公判しか傍聴していませんが、相当な数の自動車を盗んだようです。
一件の『仕事』で彼がタイ人男性から受け取っていた報酬は数千円から一万円程度でした。
窃盗の裁判を傍聴していると、このような転売目的での窃盗事件は非常に多いです。他にも中古書店に売るために本やCD、DVDを盗む者、リサイクルショップに売るために電動工具や家電を盗む者など、盗まれる商品や転売先も多岐に渡ります。薬やお酒も高額で転売できるので狙われやすいのです。
店舗はもちろんメルカリやヤフーオークションでも、盗品を出回らせないように対策を取っていますが防ぎきれていないのが現状です。
私たちが「安く手にいれることが出来た!」と喜んでいる掘り出し物、それは実はどこかで盗まれた物なのかもしれません。(取材・文◎鈴木孔明)
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