たまに、刑事が来社していました。アポなしの時もあれば、アポありの時もある。できればアポありで来て頂きたものです。
今回はアポなしの話です。
その日は何らかのトラブルがあって、疲れて会社に戻りました。夕方頃でしたか。
「お疲れーっす」と力ない声で部員に挨拶をして自分の席に座ろうとしたが、編集部の雰囲気がおかしい。みんな顔がこわばっている感じでシーンとしています。
と、思ったら女性編集部員が申し訳なさそうな顔で
「あの、警察の方があちらに」
と小声で耳打ちしてきました。
横を見ると少し離れた場所に2人の男性が座っていました。
あの人たちか。
当然、警察が来るということは、警告か、任意の聴取を取りに来たのでしょう。まさか「この雑誌、いいですね」とか褒めてくれる訳など考えられませんし。疲れていたので、非常に力ない声で彼らに挨拶をし名刺を渡しました。 若い刑事とベテランの刑事でした。
刑事「あの、この雑誌なんですがね......」とまずは一般的な質問からはいってきました。一通り、コンセプトなどを説明したあと、「この記事はどういう事でしょう」と前々号くらいの『実話ナックルズ』を持ち出し、あるページを開きます。
その記事は「石原都知事暗殺計画の真偽」とかいうタイトルだったと思います。要するに当時、都知事だった石原慎太郎氏が、「歌舞伎町浄化作戦」をしているので、水商売などがやりにくくなる、という事で一部のヤクザが騒いでいる、という内容の記事でした。
同時期に石原都知事はフィリピン、ロシア、コロンビア、ルーマニアパブなども名古屋入管局長時代に徹底的に外人を排除した坂中氏を東京に呼び、歌舞伎町からまず「浄化」しようとしていました。
※空き地だらけになった歌舞伎町
ちなみに、僕は混沌とした怪しい歌舞伎町が大好きだったので、あの対応は残念だと思っていました。今や、すっかり観光地ですから。
刑事「この記事はどうやって取材したのですか?」
僕「まず、具体的な情報源は明かせません。そういう条件で取材に応じて頂いたので」
刑事「このタイトルのような計画はあるんですか?」
僕「タイトルには真偽、とつけてあります。それと記事の内容をご覧頂いていますか?」
読んでいなかったらしいのです。読んでから来て頂きたかったですね。
僕「読んでみて下さい」
読んでいるうちに、刑事が顔を見合せて小声で話し始めました。
僕「僕自身はそんな計画はないと思いますよ。ただそういう噂が耳に入ってきたので、じゃあその噂を確かめよう、という内容になっていますよね」
刑事「うーん......、そうですね」
僕「えっと、納得していただきましたか?」
刑事「あと、この雑誌はどこで売っているのですか?」
は? コンビニ中心ですけど。
刑事さん、そもそも『実話ナックルズ』の存在を知らなかったらしい。なので、通り一遍の説明をしてレクチャーして差し上げました。
「うーん、困ったな」というのが僕の感想である。
恐らくあの刑事も上から言われて、何が何だかわからないうちに、無理にウチの会社に来たのだろう感がありありだった。
ほんの少しだけ刑事に同情した。だって記事の内容を読めば、わざわざ足を運ばなくてもよかったはずですから。
テレビ番組の「警察24時」みたいな番組を見ると、皮肉を交えて「カッコいい」と感じてしまうが、こういった刑事もいるのを見ると、警察の捜査能力に疑問を抱いてしまう時もあります。因みに、この刑事さんたちは「偉そう」ではなかったです。(文・久田将義 連載「偉そうにしないでください。」)
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