朗読詩人 成宮アイコ 傷つかない人間なんていると思うなよ

わたしはたぶん、ものすごくできが悪い。一瞬で意識が違うところに飛んでしまい、日常がうまくいかない話|成宮アイコ・連載

2018年06月06日 ADHD メンタルヘルス 成宮アイコ 生きづらさ

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決めた場所に置く、こともできない

 左目にものもらいができたので、目薬を持ち歩いています。
 出先で、いつも目薬を入れているポーチを探すと、入っていません。カバン中を探してもありません。家に置いて来ちゃったのかな、と帰宅後に部屋を探しても見つかりません。仕方がないので、明日また医者に行ってくるしかないか...と落ち込みながらお風呂にはいり、ベッドの布団をめくると、そこに目薬がありました。

 おそらく朝、洗面台で点眼をして、カバンに入れようとしたところで布団が落ちているのが目に入り、ベッドをなおすことに気を取られて、なぜかそこに目薬を放り投げたのだと思います。
 洗面台からカバンまで、たった5,6歩なのに注意が持ちませんでした。

 あわててパニックになり、再度、処方をしてもらい帰宅をしたら見つかってしまった、なんていう日には相当落ち込みます。何度かあります。そういう時は、「もういっそ見つからないでくれ」と思ったりもします。

 「決めた場所に置く」というルールを決めても、決めた場所に行くまでに注意が散漫になるので、スマホの充電器なんて毎夜探している気がします。

自分の記憶を信用しきれない虚しさ

 シャンプーとコンディショナーがうまく買えません。
 買い忘れないように帰宅時間に、「シャンプー買う!」というタイマーをかけても、タイマーを消した瞬間に別のことを考えてしまい失敗。ある時は、「シャンプー...シャンプー...」と唱え続けてスーパーへ向かったのですが、ふいに目に入った『歯ブラシ80円』のPOPに意識がもっていかれ、玄関の鍵をあけるところで、「ああ!」と思い出します。

 翌日、パッと目に入った見慣れたロゴのパッケージ、目立つ色合いのそれを手にとり、「よし...買えたぞ...」と帰宅。ボトルに詰め替えようとしたところで、思い出しました。このシリーズは、濃い色の目立つパッケージがコンディショナーだから、もう絶対に間違えないようにしよう、と思ったことを。2回目です。コンディショナーのストックが、また増えてしまいました。

 どうして、スーパーの棚の前でそれを思い出せないのか。
 どうして、シャンプーかどうかをチェックしてから買うことができないのか。
 どうして、みんなができることができないのか。

 読んだ本や観た映画の記憶もぐちゃぐちゃになるので、何度も同じ作品を楽しめるという利点がありますが、行った場所や、そこに行くまでの記憶も混ざってしまうので、「一体、この思い出はいつのものだったかな?」と、わからなくなることがあります。

 だんだん、誰と話した会話だったのか、今思ったことなのか、1週間前に思ったことのデジャブなのか、曖昧になってしまいます。

 この話、いつ、誰としたんだっけ。
 自分の記憶を信用しきれなくなることは、とても虚しい気持ちになります。

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目に入ったものが頭に入り込みすぎてしまう

 いまだに『5』以上の計算がパっとできません。
 何気ないふりで両手の指に意識を集中し、1、2、3...と計算をしています。2ケタは電卓を使わないと無理ですし、数字自体が覚えられないので、スマホのメモを観ながらスマホの電卓を使うときは、何度も画面を切り替えて確認をし、確認をしても間違えたりします。

 飲食店での注文が苦手です。
 あたたかいそばが食べたかったのに、カウンターに貼られていた説明、「かけ」「ひや」「もり」の最後の「もり」が目に入り、それがあたたかいそばだと思い込み、「もり」を注文。出てきたのはもちろん、冷たいざるそばでした。目に入ったものが頭に入り込みすぎてしまいます。入る前に何度も確認をして、「かけ、かけ」と繰り返していたのになぜ間違えたのか混乱をしながらそばをすすりました。

 目的駅で電車を降りられません。
 「あ、次は降りる駅」と、心の中で降りる体制を整えるのですが、「降りる駅」と思った瞬間に、突発的に別のことを考えてしまい、気がついたら目的駅が過ぎています。昨日は、目の前の人の黒いスカートがかわいくて、気づいたら「#黒いスカート」でインスタ検索をしてしまい、降りそびれました。

 その前の日の朝は、定期の期限がいつまでだったのか気になり、パスケースを開いて確認をし、汚れたパスケースを洗う方法を考えてしまい、電車自体に乗り忘れました。
 正直、嘘だろ...と思いました。
 目の前を電車が入ってきて、止まり、また走り去っていくのをなぜ気がつけないのか、自分でもさっぱり意味がわかりません。いや、もしかしたら電車が遅れて来ていなかったのかもしれない、とも思ったのですが、駅のホームには電車待ちをしている人がいなくなっていたので、おそらく電車は来たのでしょう。
 なぜみんなは電車にちゃんと乗れて、ちゃんと降りられるのだろう。シンとしたホームは異世界のようでした。

 みんなはどうやって生きているんだろう。知りたい。


LINE IDの英語の意味や、こっそり応援している芸能人が知りたい

 前回のコラムで書いた「2センチの離島」しかり、しいたげられることの多い人生だったので、「異世界にいる感覚」もしくは、「自分が世界にいさせてもらっている気持ち」が消えません。

 現実は異世界なので、人が自分をどう思っているかはあまり気になりません。人間なので、できれば好かれたら嬉しいのですが、人が自分を嫌いでもそれほど気にならないのです。ただ、自分が相手を嫌な気持ちにさせていないかは、いつも不安です。全員が異業種、ここにいてすみませんの気持ちです。

 かといって、それが他人に興味がないということではないのです。それぞれの人が、ひとりの時に何をしているのか、とても興味があります。

 スマホのロック画面を見せてほしいし、お気に入りの歌詞を引用したインスタの投稿だとか、中学2年生のときに好きだった音楽だとか、聞いていたラジオ、好きだった映画、学校をサボった日にしていたゲーム、トイレの中で考えていること、やけ酒の理由、LINE IDの英語の意味、こっそり応援している芸能人...それぞれの誰かが、個人のときのことが気になってたまりません。
 めったなことがないと誰にも見せることのない、「パスワードを忘れた時の秘密の質問」の設定のことを考えると愛おしい気持ちにさえなります。


人の愚痴を読むと、いいぞもっとやれと思う。なぜなら、

 話がそれましたが、そんな風に人生を異世界気分で過ごしてきました。
 
 ときどき、「人がつらがっていると、自分のほうがつらいのに! とか、自分の方が頑張ってるのに! って思ったり、嫉妬したりしないですか」と聞かれることがありますが、誰かの垂れ流す愚痴を読んでいると心の中で、いいぞもっとやれ、と思います。誰かが愚痴をはいていると、わたしも愚痴を言いやすくなるからです。
 せめてSNSでは、現実の100倍くらい愚痴をはくのは大賛成です。我慢してきたぶんだけ、盛ったっていいとさえ思います。

 他人にはそう思えるのに、「自分なんかが他人に嫉妬する立場にあがってもいいのでしょうか」という奇妙なへりくだり感があるため、「嫉妬をする」という認識にはたどり着けずにいます。これは、生きる上では楽ですが、あまりいいことではないような気がします。小さいころはちゃんと他人に嫉妬ができていた気がするからです。遠足で、大好きな先生と手をつないでいた◯◯ちゃんを見て、「くやしい」と思った記憶があります。

 でも今の自分にはそれがない。
 それは、大人になったからではなく、「自分は他人に嫉妬をしてもいい立場になどいないと思っているからです。まわりにいる人たちが生きている世界と、自分が切り離されているような感覚。
 世界は地続きで、お互いが干渉をしあっているはずなのに、とにかくできのわるい自分はそこにいられない。また、世界から少しズレてしまった気がしました。


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落ち着いたところで、やっと気づく不便の正体

 人生の約半分をメンタルクリニックにかかって過ごしてきたのですが、当時、困っていた「社会不安障害」と「鬱」がある程度落ち着き、それなりに日常を過ごし始めてから、やっと冒頭に並べた日常の不便な数々に気づきました。それは、せっかく落ち着いてきた、「自分なんか」という気持ちを呼び起こすには十分です。

 例のごとく、SNSにうまくいかなかったことを書き連ねていたら、同じように不便な日常に困り果てている人たちから、こういった不便が出る症状について教えてもらいました。
 同じように感じている人がいるということ、そしてなにより、そういった症例があり、改善方法がいくつもあるということ、そして、案外みんなもできていないということはわたしを少し楽にしました。このまま、不便さと自己否定感が増えてしまうようならば、もういちどメンタルクリニックの扉を叩けばいいか。

 わたしは今朝、電車にうまく乗れました。
 ただ、帰りはちゃんと降りられるか、まだわかりません。

 きっと、今日も誰かは電車を降り忘れ、誰かは乗り忘れ、誰かはいつ誰とした会話なのかわからなくなり、誰かはスマホの充電器を毎夜探していることでしょう。そう、案外、みんな大丈夫ではない。そんなあなたの生きざまは、わたしを少しだけ優しい気持ちにさせ、「自分自身のことも同じように、見捨てないであげよう」なんて思わせてくれるのでした。

(成宮アイコ・連載『傷つかない人間なんていると思うなよ』第十五回)

文◎成宮アイコ

https://twitter.com/aico_narumiya
赤い紙に書いた詩や短歌を読み捨てていく朗読詩人。
朗読ライブが『スーパーニュース』や『朝日新聞』に取り上げられ全国で興行。
生きづらさや社会問題に対する赤裸々な言動により
たびたびネット上のコンテンツを削除されるが絶対に黙らないでいようと決めている。
2017年9月「あなたとわたしのドキュメンタリー」(書肆侃侃房)刊行。

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