野球の「プレミア12」。日本は準決勝・韓国戦(19日)でまさかの大逆転負け。「完璧だった先発の大谷翔平をなぜ代えた!?」「なぜ則本を引っ張った?」「小久保監督の継投ミス」「解任しろ!」という批判の声、声。張本勲が喝を入れる前に全方位から喝を入れられた小久保。
でもその前にとても大事なことがある。みんな忘れてないだろうか?「やっぱり日韓戦は何かが起こる」という重要な事実を。今回もそのドラマ性を再確認した。美談で埋め尽くされた物語には興味が無いが、野球の日韓戦の物語にはそれだけですごいものがある。
●本当は韓国との暗くて激しい試合を待ち望んでいた日本人
あの「WBC」(ワールド・ベースボール・クラシック)を思い出してほしい。2006年の第1回大会、日本は韓国に負けた後にマウンドに国旗を突き差され大喜びされた。およそ真っ当な国際大会にはありえない振る舞いを受けた。しかしそのあと奇跡的に準決勝に進出した日本は韓国とまた対戦し、ここで勝つ。
2009年の第2回大会は2次ラウンドで韓国に負けて1位通過をゆるしたものの、決勝で韓国と激突。延長戦でそれまで不振だったイチローが決勝打を放ったとき、大げさではなく、日本が揺れた。またしても劇的に日本が勝った。2013年の第3回大会は韓国がまさかの予選敗退。しめしめと思う半面、私はどこか拍子抜けした。いったいこの気持ちはなんだろう。拙著『教養としてのプロレス』(双葉新書)にはこう書いた。
《韓国が予選敗退して「あー、韓国がいないとこんなにのんびりと野球を楽しめるのか」と私は思っていたが、それは今から考えると自己を偽っていたと思う。本当は韓国との暗くて激しい試合を待ち望んでいたのだと思う。イヤ~な気持ちも内包しながら感情を揺さぶられて見る、あの「決闘」を心待ちにしていたのだ。》
《次回はカード編成に気を付けてほしい。日本と韓国は必ず1回はぶつける。大会ではなく興行ならそういうものだ。》
なぜプロレスをテーマにした本で野球の日韓戦について書いたか。「こいつだけには絶対負けたくない」という暗い情念を抱えて観る試合はどれだけ興奮するか? ということを書きたかったのだ。それはつまり、力道山が日本人に見せた興行の基本である。
私は韓国との「絶対に負けてほしくない戦い」(どこでもそうだろうが、お隣の国には負けたくないものだ)の緊張感に息苦しさを覚えながら、一方で敵ながら韓国あっぱれとも思いはじめた。どんなことをしても勝とうというあの泥臭さ、必死さ。敵として見ていただけだが次第に惹かれている気持ちにも気づいた私は、韓国へ2度プロ野球を観に行った。韓国プロ野球はベンチの上にチアガールがいて応援合戦を繰り広げていて、それはそれは壮観だった。国際大会のおかげで韓国野球にも魅了されたのだ。そして今回の「プレミア12」。興行主は別の新しい国際大会が始まった。
ここで日本は初戦で韓国と対戦(8日)。大谷翔平が投げてあっさりと勝った。え、こんなに簡単でいいの? これは壮大なる前フリじゃないの? 騙されないぞ、騙されないぞと用心した。
で、準決勝である。またしても大谷翔平がスイスイ投げる。楽勝ムードでキツネにつままれた感。「大谷の登場によって、韓国とのドロドロの戦いはもう過去のものなのか」。ようやく納得し始めた。そしたら......。
あの9回の逆転負けである。ああ、やっぱりただでは終わらないこのカード。小久保監督の継投ミスと言ってしまえばそれまでだが、私には依然として日本対韓国戦には魔力があるとしか言えない。簡単に予想できる試合なんかない。今回の教訓は「だから野球賭博はやめておけ」ということでもあると思います。
Written by プチ鹿島
プチ鹿島●時事芸人。オフィス北野所属。◆TBSラジオ「東京ポッド許可局」◆TBSラジオ「荒川強啓ディ・キャッチ!」◆YBSラジオ「はみだし しゃべくりラジオキックス」◆NHKラジオ第一「午後のまりやーじゅ」◆書籍「うそ社説 2~時事芸人~」◆WEB本の雑誌メルマガ ◆連載コラム「宝島」「東スポWeb」「KAMINOGE」「映画野郎」「CIRCUS MAX 」
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