「元官僚」で「上級国民」だから私刑に処するのか 71歳男性が90歳女性を轢き殺した裁判を思い出した池袋の母子死亡交通事故

池袋の事故では被疑者の過去や住所、電話番号までネット上で晒されました。ここまで来ると完全に私刑です。また、ベストセラー作家までが私刑に便乗して見るに耐えない罵詈雑言を書き散らしています。作家を名乗っていながら、重大な事故を起こしてしまった人やその家族が抱える自責の念がどれほど重たいものなのか想像もできないようです。

被害者遺族のことを考えれば憤りを覚えるのは仕方ないかもしれません。しかし、それは被疑者に私刑を加えていい理由にはなりません。彼らは一体何を思い上がって何を根拠に人を裁いているのでしょうか。

「死んで詫びろ」

「自殺しろ」

「こんなクソジジイはど突きまわしてもいいよな」

こんな言葉が飛び交っています。

過失運転致死の被告人には時折本当に自殺しかねないような精神状態になっている人もいます。もし万が一、被疑者が自殺したとしたら…この言葉を書き込んだ者たちに一人の人間の死を背負って生きていく覚悟はあるとは思えません。

言葉は時に人を殺すことができる力があります。覚悟もなしにデマに乗せられ感情に振り回されて言葉を紡ぐ人間に、言葉を使う資格などありません。

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池袋の事故の報道を見て、はじめに思い出したのが冒頭の被告人の表情でした。その表情から、人の命を奪ってしまった者が抱える罪悪感の大きさがうかがえました。

今、ネット上で私刑を加えている人たちはどうせ時が経てば溜飲を下げて今回の事故のことなど忘れるのだと思います。しかし、被疑者は今後ずっと、二人の命を奪ってしまった自分の罪と向き合って生きていきます。被害者遺族の悲しみに寄り添うことは大切ですし、被疑者が今後歩んでいく道の険しさを慮ることも忘れてはいけないはずです。(取材・文◎鈴木孔明)