【事件】「暇と寂しさであふれていた」広島LINE事件を少年少女たちのブログから読み解く
広島県呉市の山中で広島市安佐北区に住む専修学校2年の女子生徒(16)の遺体が発見された。この事件で元同級生だった無職少女(16)が自首し、ほか6人も逮捕された。被害者と逮捕された少年少女らはLINEで繋がっていたことで話題となり、一部では「広島LINE事件」などと呼ばれたりした。ブログでつながっていたが、その内容からどんなことが読み取れるのだろうか。
●LINEでのグループチャット
逮捕されたのは7人。このうち最初の自首した無職少女A(16)=広島市東区、Aの友人の少女B(16)=広島市中区、Bと交際していた少年C(16)=鳥取県米子市、Aの交際相手C(17)=住所不定、瀬戸太平容疑者(21)=鳥取県湯梨浜町の5人は遊び仲間だった。また、少女E(16)=広島県安芸郡=と少女F(16)=広島県呉市=は、先の5人と面識はなかったが、この7人はLINEでつながっていた。
LINEでは、複数の人が参加するグループチャット(グルチャ)機能がある。参加しているメンバーの一人が招待できるため、他のメンバーとの面識がなくとも参加できる。その結果、同世代を中心に50人以上が参加していたものだった。LINEのグルチャは、他のネットサービスとは違い、検索エンジンで検索できない。そのため、報道されている内容は、メンバーが「やばい」と思ってキャプチャ(=スマートフォンの画面を写真撮影し保存すること)していた内容だった。報道によって内容が違うのは、取材で入手したキャプチャの内容が違っているからだ。
ただ、このキャプチャでは、事件のきっかけとなった悪口やあおり、自首する意志などはわかるが、当事者たちの心理状態などはまったくわからない。そこで、当事者達が綴っていたブログがある。若年のユーザーが多いデコログというサイトを使っていた。そのブログを読むと、心情を推測することができる。
暇なんすょー
誰かかまちょー
(Bのブログ、2012/5/30 10:00)
キーワードとして多いのは「暇」「かまちょ」。暇といっても、一日中何もすることがないということだったり、ちょっとした空き時間というまでさすが、その「暇」な時間を埋めるようにブログを書いている。2004年の長崎県佐世保市での小6同級生殺害事件の加害少女もブログでも「暇」との言葉は散見していた。「暇」が耐えられないときに、なにか”イベント”のようなものを欲するのだ。
そして「かまちょ」(かまってちょだい)ともある。空き時間に誰かとつながっていたいというのは、デジタルネイティブ世代では特に珍しい感覚ではない。暇な時間を埋めたいという心理は、プリ帳(プリクラ手帳)にいろんな人とのプリクラ、時には知らない人のプリクラを貼り、手帳を埋め尽くすような感覚と似ているのかもしれない。
瀬戸容疑者もブログでこう書いている。
ひまひまT_T
だれかかまちょかまちょT_T
ひますぎてヤバイんだけどT_T
(瀬戸容疑者のブログ、05/08 21:32)
その寂しさを恋愛で埋めようとしている。
馬鹿みたいに頭がおかしくなるぐらいむっちゃ大好きだし
やっと本気になれた人だし
これが最後にしよ
(瀬戸容疑者のブログ、05/13 12:48)
その後、ヤンデレ的な日記になっていく。恋愛と暇しかほどんど語らなくなっていく。一方、Bは、寂しさの理由を書いている。
些細な事でさ
喧嘩してさっっ
学校もやめて
家も出て警察沙汰に
なってさーーー
結局縁切って
音信不通ょね・・・
お母さんに電話しても
誰です?とか
もお掛けてこんでとか
もお復縁出来ん(ToT)
(Bのブログ、5/31 23:26)
Bはブログを読む限り、家族崩壊の穴埋めとして恋愛に向かっていった。Bは恋人が出来てから一途な関係を求めている。遠距離恋愛だが、会えた日には興奮してか、キス写真も載せるほどだった。寂しさの裏返しなのだろう。
●合流した2人はリアルが充実している?
一方、当日まで会ったことのなかったEとFのブログは違った雰囲気があった。Eのブログには同性の友人たちと遊んだことが書かれていた。恋愛のことはほとんどなく、寂しさを綴る様子もない。友人たちとの写真もたくさん載せている。
ツレわ大事。男よりツレよ。わら
結局最後に残るんわ、ツレ
(Eのブログ、07/09 14:08)
Eは事件の翌日に、友人たちと事件現場近くで花火をしている写真をアップしている。「犯人は再び事件現場を訪れる」といった感覚ではなさそうだ。また、Fは彼氏ができるが、それほど没頭している感じでもない。
あとあとあと、報告です!
男できました( ̄(工) ̄)
年下と付き合うの
初めてぢゃけ
大変なことある思うけどね!
応援してくれたら嬉しいです・
(Fのブログ、6/30)
こう見て行くと、事件の中心になった5人と、たまたまその日に顔を合わせることになった2人とはずいぶん家庭環境や友人関係が違っている。これは、事件を取材する現場の記者の感覚とも一致するようだ。
となると、「集団心理で暴走し、事件を止められなかった」という単純なものではない。地方在住の10代の少年少女にとって、家族といった世界が壊れていると、恋人関係は最大限に大切にする。被害少女は自首した少女を「だーい好き」と書き、決して仲が悪かったわけではない。ただ、ブログを読むと、被害者は母親との関係は悪くは感じない。そこが事件の中心となった5人とやや違和感があったのかもしれない。それが金銭トラブルを発端に、嫉妬のようなものが生じ、人間関係のパワーバランスが崩れたのかもしれない。
Written by 渋井哲也
Photo by Stuart Miles
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