虫の知らせ 「今日は何か変だ…帰った方がよさそうな気がする」|川奈まり子の奇譚蒐集二三
植木の列は母屋まで続いているのだ。見れば、松明と化して柘植から隣の木にも延焼しかかっている。木から木へ燃え広がったら、家まで焼けてしまう!
ドラム缶の近くに水道の蛇口とホースがあるのは幸いだった。溝口さんは火の粉を払いながら、ホースを引き出して炎に水をかけはじめた。
そこへ、母屋の裏から小走りに母がやってきて、「あんた何してるの?」と叫んだ。
「帰ってきたら燃えてたの! お父さんは!?」
「すぐ戻るって言って、さっき軽トラで……ってそんなこと言ってる場合じゃないわ! 消火器持ってくる!」
「急いで!」
それから30分以上、母と2人で消火活動に励んだ。
火がようやく消えて、水浸しになった燃え殻を片づけているところに、父がようやく帰ってきた。
朝の作業で思いがけず大量のゴミが出たので、土の上に積んでトタン板を被せて焼いたとのことだった。トタンを載せたから燃え上がりはしないだろうと思い、ほんの5分で戻るつもりで、近所に届け物をしに行った。引き留められて話し込んでしまったのだと父は申し訳なさそうに言った。