虫の知らせ 「今日は何か変だ…帰った方がよさそうな気がする」|川奈まり子の奇譚蒐集二三

「……ところで、おまえ、会社はどうした?」
「そうよ。まだお昼前よ? あーあ、スーツが台無しじゃない!」

溝口さんが事情を説明すると、母は「ご先祖様が呼んだのよ」と納得顔でうなずき、父は「虫が知らせたんだろう」と言った。

――ということはつまり、ご先祖様が鬼部長に取り憑いて溝口さんを早退させて、一家を火事から救ったのだろうか?

翌日は、また何事もなかったかのように、部長は元の鬼上司に戻っていたということだ。

 

 

4人目は今野広志さんという大阪府出身の男性で、虫が知らせたときの日付まで憶えていらっしゃった。
「あれはまだ大阪に住んでいた7年前の11月24日のことでした……」